2020/09/17
昆正和の気候クライシスとBCP
■気候変動の議論はより複雑になってきた
このように、直接的間接的に気候変動の事実やその問題をかわそうとするさまざまな意見があるわけですが、最近は次のような議論も見られます。
例えば「欧州はグレタ・トゥーンベリさんを気候問題のシンボルに担ぎ上げ、ルールメイキングを通じて脱炭素社会のリーダーの座を勝ち取ろうとしている」といった警戒心です。
欧州は、とくに2000年に入ってから気候変動による災禍を繰り返し被ってきた歴史があります。2003年にフランスで起こった熱波で1万5000人以上が亡くなったことは記憶に新しいところですし、近年ヨーロッパで(否、全世界で)多発している大洪水に至ってはこれ以上語るまでもない。彼らは気候変動に対する現実的な危機感と脱炭素社会への希求が、私たちより高いことは間違いありません。
もちろん欧州にも、現実的な気候危機よりもマネーや覇権争いの方に強い関心のある政治家やビジネスマンはたくさんいるでしょう。しかし目指すものがリーダーであれマネーや覇権であれ、欧州では脱炭素社会に向けた具体的な一歩を踏み出しているという事実があります。

例えば2050年までに温室効果ガスの純排出量ゼロを目指す「欧州グリーンディール」を発表し、これを具体化するさまざまな技術開発やインフラ投資を計画しています。また欧州の金融機関や機関投資家は石炭火力発電事業への投融資を止め、環境、社会、企業統治に注目するESG投資の方を加速させています。

冒頭で述べたような警戒心は、それ自体は政治やビジネスの関心事として興味深く意義のあるものであっても、気候危機の核心的な問題やそれに対する世の中の関心が、こうした議論にすり替わってしまうリスクがあります。結果的に生態系を包括する地球規模の危機を、人間社会の利害や駆け引きの道具として矮小化したり薄めてしまうことになるからです。
気候変動や地球温暖化に関する書籍、ネットニュース、SNS上には、時としてこうした気候問題をあからさまに否定したり、意図せずして問題の核心がかすんでしまうような意見が見られます。十分に注意し、気候リテラシーを磨いていかなくてはなりません。
昆正和の気候クライシスとBCPの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方