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気象災害というと、台風や発達した低気圧による風水害、あるいは前線による豪雨など、激しい気象現象を想起する人が多いだろう。しかし、高気圧に伴って、静かに、しのび寄るかのように進行する気象災害もある。その代表的なものが霜害だ。都会で暮らす人には、あまり関心を持たれない災害かもしれない。しかし、農業関係者にとっては油断のできない、しかも対策の難しい災害だ。ようやく春を迎え、作物の生育が緒についた矢先のおそ霜(晩霜)は、農作業を振り出しに戻してしまう。今回は、春の晴天の夜にしのび寄る晩霜害を取り上げる。

霜は降りる、露は置く

霜(しも)は珍しい現象ではない。雨かんむりのかぶった漢字が使われ、「降霜」(こうそう)という言葉もあるが、霜は降水ではない。霜は物体の温度が摂氏0度以下でかつ気温より低いとき、物体の表面に触れる空気が冷やされて、空気中の水蒸気が物体の表面に氷の結晶として昇華する現象である。つまり、霜は空から落ちてくるのではなく、その場で生じるものである。日本語では、霜は降(ふ)るとは言わず、降(お)りると表現されるが、気象現象としての霜は、決して降下するものではない。

同じく雨かんむりの漢字が使われる現象に、露(つゆ)がある。こちらは、「降りる」のほかに、「置く」という風情のある表現も使われる。「結露」という言い方もある。露も降水ではない。露も、物体の温度が気温より低いときに、物体の表面に触れる空気が冷やされてできるが、物体の温度が摂氏0度以上のとき、空気中の水蒸気が物体の表面に液体の水として凝結する現象であることが、霜との相違点である。露は、物体の上面だけでなく下面にもできるが、下面にできた露はしたたり落ちてしまうので、「置く」という表現が使われるのであろうか。

霜と露とでは大違い

物体の温度が気温より低いときに、物体の表面に触れる空気が冷やされてできるという点で、霜と露は共通する現象だが、その影響は大違いである。物体の温度が摂氏0度より低いか高いかの、わずかな温度の違いによって、霜になるか露になるかが決まるのだが、その影響は決定的に異なる。露ならば被害は小さいが、霜になれば農作物に大きなダメージが生じる。

気象現象としての霜や露の多くは、晴れた日の夜間に、「放射冷却」と呼ばれる現象によって、地上にある物体の表面温度が気温より低くなったときに発生する。全ての物体は、その表面温度に応じて電磁波というエネルギーを放出しており、地表面からも常時、赤外線と呼ばれる電磁波が空に向かって放出されている。昼間は太陽光として降りそそぐ熱エネルギーが圧倒的に大きく、地表面の温度は上昇するが、夜間は太陽光による加熱がなく、地表面の放出する赤外線によって地表の熱が奪われる。これが放射冷却である。

放射冷却は、地表からの赤外線を遮る雲のない、晴れた日の夜間に顕著となる。放射冷却が顕著に現れるとき、まず地表面とその近くの物体の温度が下がり、次に、それに接する大気の温度が追随して下がっていく。だから、地表面近くの物体の温度は、気温より低くなっている。この温度の高低関係が重要で、この条件が成立したとき、霜や露の発生につながる。そして、地表面近くの物体の温度が摂氏0度より低ければ霜が降り、高ければ露になる。以上が、霜や露のごく大ざっぱなメカニズムである。