2020/01/24
ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために
さまざまな法律的課題
現在考えられる法律的課題は以下の通り。法律ごとに論点を整理した。
1. 獣医師法上の課題
獣医師でない者が動物の診療を業務として行うことは法律上禁止されている(獣医師法17条)。
ただ、消防士や自衛隊などの災害救助関係機関の隊員が、災害現場で動物の救命救急行為をすることは、「診療」を「業務」として行うことには該当しないのではないだろうか?
診療とは「診察と治療」、業務とは「毎日継続して行う仕事」である。消防士は毎日、違う現場で、それぞれの命に対して必要な救命救急処置を行っており、診療報酬を求めた業務としては行ってはいない。
(飼育動物診療業務の制限)
第17条 獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。
(罰則)
第27条 次の各号の一に該当する者は、2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第17条の規定に違反して獣医師でなくて飼育動物の診療を業務とした者
現時点では、飼育動物(牛・馬・豚・めん羊・山羊・犬・猫・鶏・うずら・その他獣医師が診察を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る)以外の下記の小動物は、消防士が現場で救命救急処置を合法的に行えると解釈されるという意見がある。
ウサギ〈ウサギ目ウサギ科〉
ハムスター〈げっ歯目ネズミ科〉
マウス〈げっ歯目ネズミ科〉
スナネズミ(ジャービル)〈げっ歯目ネズミ科〉
モルモット〈げっ歯目テンジクネズミ科〉
チンチラ〈げっ歯目チンチラ科〉
シマリス〈げっ歯目リス科〉
プレーリードッグ〈げっ歯目リス科〉
モモンガ〈げっ歯目リス科〉
ハリネズミ〈食虫目ハリネズミ科〉
フェレット〈食肉目イタチ科〉
スカンク〈食肉目イタチ科〉
アライグマ〈食肉目アライグマ科〉
フェネックギツネ〈食肉目イヌ科〉
ワラビー〈有袋目カンガルー科〉
ポッサム(フクロギツネ)〈有袋目クスクス科〉
サル〈リスザル:霊長目オマキザル科、マーモセット:霊長目キヌザル科〉
2. 刑法上の課題
動物の飼い主の承諾を得ないで動物の診療を行った結果、動物が死亡した場合、器物損壊罪が成立する可能性がある(刑法261条)。
しかし瀕死の状態にある家庭動物に対して、飼い主の承諾がなくても緊急に措置しなければならないことがある。
その場合に不幸にも力を尽くしたにもかかわらず、当該家庭動物が死亡し、刑事罰を科される恐れがあるといって、現場で瀕死の状態の家庭動物を消防士や自衛隊員が何の救命救急処置を行わず命を見捨ててしまうのは、動物愛護の観点からいかがなものだろうか?
裁判になったとしても、その行為が動画などに記録されていれば、明らかに正当防衛に該当する可能性が高いと思う。
(器物損壊等)
第261条 前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
3. 国家賠償法上の課題
動物の救急措置において、前記2と同じく不幸にも力を尽くしたにもかかわらず動物が死亡した場合、消防士は公務員であるため所属先の自治体などに対し、飼い主から国家賠償訴訟を提起される可能性がある。
これも、十分な動物の救命救急法を習得し、訓練を行っていれば重大な過失が起こる可能性は低い。また日本の法律上、家庭動物は「財産」としているため、火災現場で飼い主と同じくペット(家庭動物)を助けることは、消防法第1条の「国民の財産を火災から保護する」という目的を果たすことになる。
第一条 この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(公権力の行使に当る公務員の加害行為に基く損害賠償責任・その公務員に対する求償権)
第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
4. 消防法・消防組織法上の課題
動物への救急措置については明文規定はない。しかし、消防法・消防組織法上、動物への救急措置を根拠づけ得る規定がいくつかあるため、これらの規定に含めて考えることができると思う。
(消防対象物及びその所在土地の使用、処分又は使用制限及び火災現場にある者に対する消防作業従事命令)
第29条 消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
消防組織法
(消防の任務)
第1条 消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。※家庭動物は「財産」に該当する。
ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるためにの他の記事
- ペットの熱中症対策
- 補助犬およびサービスアニマル(情緒障害サポート犬)の救急搬送
- 火災における犬と猫の救急医療判断と治療
- 日本の災害現場では消防士がペットを救命処置できない
- ペット同伴避難拒否とその法的課題
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方