■スムーズに避難するための3つのポイント

前掲の火災事例から、企業一般向けの教訓を汲み取ることは可能だろうか。あくまで筆者の視点ではあるが、避難をスムーズに行うためには次の3点に配慮すべきではないかと考える。

(1)見通しが効くようにすること

今日のオフィスはモデルルームのように簡素で整然とした見通しのいいレイアウトになっている所も少なくない。このような環境での避難は比較的容易と思われる。一方、何台ものOA機器や背の高いスチール棚、おびただしい数の書類、ずっしりとモノが詰まったダンボールなどが机上や通路に所狭しと置かれている会社も依然としてある。数メートル先へ行くにも迷路のような凸凹を縫って歩き回らなければならないとすれば、いざという時に避難が困難になるのは目に見えている。「室内のレイアウトは直線的で見通しが効くこと」「通路に障害物を置かないこと」。この2つを肝に命じたい。

(2)室内の従業員数に配慮すること

人口密度の多い空間で突然災害が発生すると、相反する2つの集団心理と行動が見られることがある。一つはいわゆる正常性バイアスである。危険が迫っていると自分が察知しても、周囲にその緊迫感がないと自分を周囲の空気に合わせてしまい、結果的に逃げ遅れてしまうことがある。もう一つは、集団パニックやヒステリーが起こることだ。例えば一人が「ドアが開かない!」と叫ぶと、周囲の者は「もうだめだ」と思い込み、正気を失ってやみくもに室内を逃げ惑う。少人数であればこれらを容易に防げるというものでもないが、人数が多いと、とっさの判断や行動にバイアスがかかって危機を招くことは、登山パーティによる山岳遭難などにも見られる。

(3)"いつもの避難訓練"を形骸化させないこと

恒例行事として毎年欠かさず避難訓練を実施している企業、あるいは月に1回は必ず避難訓練を実施している高齢者介護施設や保育園など、模範的な組織は少なくない。ただし1つ留意したい点がある。それは毎回全く同じパターンを反復する「マンネリ避難訓練」に陥らないようにすること。火災ならば、発災ポイントや避難経路を時々変える工夫をしたい。実際の火災ではいつも同じ避難経路を通って避難できるとは限らないからだ。

最語に、個人でできる火災避難の対策と備えについて。会社やビジネスホテル、その他の施設内では非常口と非常階段の場所を必ず確認しておく。また、火災で有毒な煙(一酸化炭素など)をまともに吸ったら1分も経たないうちにめまいを起こして倒れてしまう。この対策として筆者はいつも「少し大きめの透明なビニール袋」をバックに忍ばせている。煙に巻かれたとき、これを頭から被れば少しの間は視界を確保しながら煙を吸わずに避難できるからである。

(了)