写真を拡大 国立感染症研究所による5月29日時点の麻疹発生累積報告数(赤線)。近年を大きく上回るペースとなっている(https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2019pdf/meas19-21.pdf

特徴:20歳以上が80パーセント、重篤な脳炎も

症状 
典型的な麻疹は、発熱、せき、鼻汁、結膜炎といった症状で始まります。普通の風邪にしては、鼻汁や目やにが多く、目が充血しているなど、医療用語でいえば「カタル症状が強い」と表現できるかと思います。38度前後の発熱が2~4日続いたあと、半日ぐらい1度程度の解熱傾向が認められ、その後39~40度の高熱が見られます。この時に発疹が出現します。

発疹は通常顔から始まり、頭部、体幹へと拡大して、全身に出現します。最初は赤い丘疹ですが徐々に癒合し(くっつき)、全体的に赤黒くなり、回復期には色素沈着をしばらくの間残すことが多いといわれています。高熱の方は数日続き、その後徐々に解熱していき、治ります。だいたい平均して7〜10日で回復します。また発疹が出現する前に口腔粘膜(頬の裏側)にコプリック斑という小さな白色の粘膜疹の集族が見られます。コプリック班は高熱が出るころには消失します。

麻疹は治ってもその後1カ月前後は免疫力が落ち、他の風邪をひいたりしやすくなることが多いといわれています。最も多い合併症は肺炎ですが、中耳炎、クループ症候群、またまれに心筋炎などを併発することもあります。冒頭に記載した脳炎は、頻度的には麻疹患者の1000人に1人と多くはありませんが、発症すると大変な疾患です。亜急性硬化性全脳症は麻疹患者の10万人に1人の発症といわれていますが、麻疹にり患してから7~10年ぐらい後に知能障害や運動障害が徐々に進行し、発症から6〜9カ月で死に至るといわれている恐ろしい疾患です。

近年、高熱や、典型的な発疹を伴なわなかったり、コプリック斑の出現がない修飾麻疹と呼ばれるものが時々みられます。修飾麻疹は不完全な免疫を保持している場合、例えば予防接種を以前に1回だけ受けた人が麻疹感染を受けた場合などに見られます。

麻疹の潜伏期は8〜12日といわれていますが、修飾麻疹では14日以上のこともあります。

感染経路、感染力
麻疹は麻疹ウイルスが気道に入り感染を起こしますが、この経気道感染には二つ種類があります。一つは飛沫感染でもう一つが空気感染です。飛沫感染はせきやくしゃみ、会話などによって飛ぶ唾液の中に含まれる水分を含む直径5マイクロメートル以上の粒子の中にウイルスが入っていて、それが周囲の人の気道に入り感染するのですが、大きいものはすぐに落下してしまいますし、水分がない状態では長く浮遊できないウイルスや細菌が感染を起こすものです。通常は感染源となる人の1〜2メートル以内のそばにいる人が吸い込み、感染をします。これに対し、空気感染は、飛沫から水分がなくなった飛沫核という5マイクロメートル以下の粒子に生息できるウイルスや細菌が感染を起こすことで、これに相当するのが麻疹、水痘、結核です。これらは感染力が大変強いといわれています。

麻疹は感染力が極めて強いということを具体的に表現すると、麻疹の免疫がない集団に1人の患者がいたとすると12~14人の人が感染するといわれています。ちなみにインフルエンザでは1〜2人です。麻疹に感染すると、免疫のない場合は90パーセント以上の人が発症するといわれています。

麻疹患者が周囲に感染を引き起こすのは、発症の1日前から、発疹出現後4〜5日といわれています。学校保健安全法では解熱後3日を経過するまで出席停止になります。