■訓練参加の有無がものを言う

訓練は「同じことの繰り返し」「単調でつまらない」「時間のムダ」と思い込んでいる人が少なくない。訓練をすることのメリットが実感できない人は、人間とロボットの違いを考えてみよう。人間がロボットと異なる点は、後者はあくまでもプログラムした通りにしか動作しないが、人間は一通り覚えた手順を臨機応変かつ自由に応用する能力があることである。

そもそも訓練はロボットのようにまったく同じ動作を繰り返すのが目的ではない。たとえ年に1回でも訓練に参加しておけば、いざというとき状況に応じて臨機応変に行動できるだろう。災害で逃げ遅れてしまう人の中には、避難訓練の経験がなく「今自分は命の危険に曝されているのだ」という自覚を欠いているケース(心理学で正常性バイアスと呼ばれている人間行動の盲点)も少なくない。

大規模災害が起こると、あちこちで被災するから限られた台数と人員の消防車や救急車、あるいは警察だけではまったく手が回らない。おまけに道路がマヒし、至る所にがれきが散乱するからわずかな距離の移動にも時間がかかる。

BCPを策定する会社の従業員の中にも、災害が起こればすぐに救急車や警察が駆けつけてきてくれる、どこかのだれかが安全に避難誘導してくれる、とばくぜんとあてにしている人が見受けられるが、自分たちの身は自分たちで守る心構えが必要である。最寄りの町内会などでは定期的に各種の訓練(初期消火、避難、AED、救護その他)を開催しているから、億劫がらずに参加するようにしたい。

■カバンの中に非常用アイテムを

通勤するサラリーマンの中には、スマホと財布しか持たず、手ぶらで会社を往復する人も少なくない。ふだんならそれでも良いのだろうが、ひとたび大規模災害に巻き込まれれば、途方に暮れ、パニックに陥ったり、時には命の危険に曝されることにもなる。そこで、万一の事態に備えてカバンの中に「緊急用アイテム」を常備することをお勧めしたい。市販品には「帰宅困難者支援キット」のようなものもあるが、筆者が少し遠出するときは、次のようなアイテムを持ち歩いている。

・ポケット地図
・ペットボトル飲料1本
・カロリーメイトなど携行食
・タオル
・新聞紙

災害時にはスマホがつながらず地図アプリなどが見られないこともあるから、ポケット地図は必携である。ペットボトル飲料はのどの渇きを癒すという実用目的以外に、非常時に一口飲んで深呼吸すればパニックに陥らずに気持ちを落ち着けることができる。カロリーメイトなどの携行食も緊急時には体力の維持と気持ちを落ち着けるには有効である。

タオルは防塵、止血、首に巻いて保温など用途はいろいろ。新聞紙は下に敷く以外に体に巻いて断熱効果を得る目的もある。これに代えてコンパクトなエマージェンシーブランケット(サバイバルシート)などがあれば申し分ない。冬場は使い捨てカイロを1個加えるとより安心だろう。また、会社のロッカーにスニーカーを一足用意しておけば、避難や帰宅の際にガレキで足を痛めなくて済む。

■家族の話し合いと身近なリスクの特定

大地震が起これば、日ごろ別々に行動している家族と連絡がとれなくなるかもしれない。自分と奥さんは共稼ぎ、子供は保育園、自宅には高齢の母一人…。このような場合に備えて、たまには家族全員で「大地震が起こったらお互いにどう行動したらよいか」といったことを話し合うことも大切である。

こうした機会を一度でも持っておけば、災害の時に万一携帯電話がつながらなくても、お互いに「うまく身の安全をはかってくれているのではないか」という思いがよぎり、多少の不安解消につながるものである。逆に一度も話し合いの機会がなければ、家族のことが限りなく心配になり、余震におびえ、膨大な帰宅難民の波にもまれながら、命からがら一晩かけて家路を急ぐことになってしまうのだ。

家庭でできる防災対策については、「リスク対策.com」内に、あんどうりす氏らによる豊富なコンテンツがあるので、ここでは筆者の視点で4つにポイントを絞って紹介する。

(1)非常食は一般に家族の人数×3日分(最近は1週間分の呼びかけも)を用意。ただしあえてこの数量や凝った品目にこだわる必要はない。いつもの「あれ」が手元になかったら、代用できるものはないか、あれこれ家庭の知恵を働かせてみることも大切だ。
(2)次に「非常時持ち出しリュック」の常備。どんなアイテムを常備するかについてはネットの防災情報などを参考にしてみよう。
(3)家具類の配置については要注意である。地震で重い家具が倒れて大けがをする事故が多発しているので、万一の際にけがをしたり通路・ドアを塞ぐ恐れのある家具・備品(食器棚、書棚、タンスなど)は固定するか、思い切って撤去する。日頃から軽いものは上に、重いものは下に収納して重心を低く抑えるよう習慣づけることも大切である。
(4)余裕があれば室内や自宅周囲の見取り図を描いて自宅のハザードマップを作ることをお勧めする。先ほど示した食器棚や書棚、あるいは隣家との境界にある古いブロック塀や自販機などは地震の際には近づかないようにマップに「×印」を付けておく。こうした危険個所を可視化して家族全員で共有することで、思わぬアクシデントに遭遇する危険を減らすことができるだろう。

(了)