サプライチェーンにおける人権問題
―海外の動向と日本企業の状況

ESGリスク勉強会 10月22日

ジェトロ調査部国際経済課 森詩織氏

ESGリスク勉強会を10月22日に開催

規制拡大のなか悩みながらも取り組み開始

ESGリスク勉強会は10月22日、オンラインで開催。「サプライチェーンにおける人権問題―海外の動向と日本企業の状況」をテーマに、日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部国際経済課の森詩織氏が、企業に人権対応が求められる背景と実際の対応状況を解説した。

人権問題はサプライチェーンにおける強制労働・児童労働を中心に、企業に責任ある対応を求める機運が高まっている。森氏は、国連が2011年に出した指導原則が転機と発言。大きく「企業方針によるコミットメント(人権方針の打ち出し)」「人権尊重に注意を払う行動を実践・公表する人権デューデリジェンス(DD)」「被害者を救済できるアクセス(苦情処理メカニズム)」の3つが求められているとした。

これを受け、経済協力開発機構(OECD)などが企業の自主的な取り組みを促す行動指針や実践のためのガイドラインを提示、日本政府も2022年に人権尊重ガイドラインを発表。加えて、欧米では企業に人権DDを義務化したり、強制労働に依拠する製品の輸入や流通を禁止したりする法制度の運用・審議が活発化していると紹介した。

特に今年7月に発効したEUの企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)は影響が大きいと指摘。加盟国に対して罰則規定付きの人権DDを義務化する法律の制定を求めるもので、各国は今後2年以内に国内法を整備、法制化から3年以内に適用する。「これに端を発した規制が広がる。企業は早いうちからの取り組みが求められる」とした。

現在の日本企業の取り組み状況は、ジェトロが直近で実施した2023年度の調査結果を紹介。中小企業を中心に約3000社の有効回答を得たもので、人権方針は約3割が策定、人権DDは約1割が実施という状況だ。が、大企業だけを見るとそれぞれ約8割、約5割で「企業規模による取り組みの差が大きい」と話した。

また人権DDの課題については、海外に拠点を持つ企業に行った調査から、そもそもサプライチェーンの把握が難しく情報の収集が思うようにできない、現地の宗教・文化や労働環境・商習慣によって意識が違う、取引先や顧客との意識の共有が困難といった声を披露。「課題山積のなか、企業はみな実効性の担保に悩んでいる。それでも取り組みを始めていかないと、経営に大きな影響を与えかねない」と述べた。

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