ルール至上主義が社会の秩序を乱す
第72回:ルール至上主義の弊害(1)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2024/09/30
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
日本のみならず多くの国が法治主義を掲げ、法律が社会生活を営む上での基盤になっている。そして法律まではいかなくとも、ルールやガイドラインが定められ、安全で平穏な生活の礎になっている。
しかしその法律も、それが必要な理由や定められた目的を見失ってしまえば、生じるリスクは計り知れないことはあまり知られていない。法律が必要とされるには立法事実という、その法律を必要とする具体的理由が必要不可欠であり、それを逸脱してしまえば法律自体の意味が失われる。
それはルールやガイドラインも同様である。世の中には数知れずルールが存在するが、その多くがいつの間にか当初の目的を忘れ、ルール策定自体が目的となってしまってはいないだろうか。この現象は、ルールが策定されたことによる安心感で満足し、思考停止が生じ、ルールの精神を忘却してしまった結果に思えるのだ。
筆者がこの状況に直面し、強烈に問題意識を持ち始めたのは、大阪から転勤で東京に引っ越したとき、およそ四半世紀前である。このエピソードはさまざまな場面で語ってきたが、ここでも簡単に紹介させていただく。
それは、エスカレーターでのマナーともいうべきルールである。
エスカレーターは急ぐ人のために右側を空けて左側に乗る。誰もが知っていて、今でも実行されているルールである。このルールの目的は、安全を確保しつつ輸送能力を最大化するため、急ぐ人の利便性も考慮してのものである。
当時の大阪では、エスカレーターは左右無秩序に立ち止まっている人がいて、急ぎの人はジグザクに歩いていた。一見無秩序に見えるが、急ぎの人を確認したら、立ち止まっている人も片側に寄って道を譲るなどの配慮をして、秩序が保たれていた。無秩序がゆえの無言の緊張感が秩序を保っていた、ともいえよう。
そういった環境で生活していた人間が突如、東京の整然と並ぶエスカレーターの周辺環境に放り込まれ、驚かされた。人の多さが比較にならないことも一つの要因だっただろう。だが、そのときに筆者が感じたのは、天邪鬼ゆえかもしれないが、むしろ危険であり、輸送能力も大幅に低下させ、混雑を助長しているということである。
確かにエスカレーターだけを見れば、整然と秩序を保っているように見える。しかし、入り口付近は人だかりで押し合いの混雑状態となり、ギャップが激しい。この入り口での停滞が危険な状態になっているだけでなく、急ぎの人もまったく急げない。
私は、なぜ右側にも並ばないのだろうか、と疑問を持った。右にも並ぶことで輸送効率は倍増し、入り口の停滞も多少なりとも解消できてリスクは低減するはずだからだ。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方