(2)対策WGの被害想定
対策WGの被害想定では、モデル検討会で想定された揺れ、津波に対する建物被害、人的被害、施設等の被害、経済的な被害が公表されている。本項では、企業の地震対策を検討する上で重要なポイントとなる①施設等の被害、および②経済的な被害について概説する。 

①施設等の被害
施設等の被害は、「建物・人的被害」、「ライフライン被害」、「交通施設被害」、「その他の関連事項」、「生活への影響」、「災害応急対策等」について、それぞれ、時系列的に想定される様相が取りまとめられている。ここでは、企業防災に直結する「ライフライン被害」として電力、通信、上下水道・ガスの被害を、また「交通施設被害」として、高速道路、新幹線の被害についてその概要を示す。なお、被害想定の「○割」は、面的な割合ではなく、需要家(消費者)を母数とした割合を示している。

a.電力


電力は、被災直後に最大9割程度が停電する。停電の主要因は需要側および発電設備の被災によって需給バランスが不安定になることであり、

電柱(電線)被害に起因した停電は全体の1割以下である。したがって、供給ネットワークの切替等により被災3日後には停電の多くが解消され、津波で大きな被害を受ける地域等を除き、被災1週間後には電力需要の9割程度まで回復する(図6)。

ただし、電力需要の回復状況によっては、計画停電を含む需要抑制が行われる可能性がある。

b.通信
固定電話は、電線被害、停電および輻輳(ふくそう)通信規制により被災直後、は9割程度が通話できなくなる。被災1週間後には通話支障の8〜9割が解消される(図7)。

携帯電話は、固定電話と同様に、輻輳、通信規制等により被災直後は9割程度通話できなくなる。基地局は非常用電源が発災から数時間後以降に停止するため、不通エリアは被災数時間後から翌日にかけて最大となる。基地局の停波は被災1週間後には9割程度が回復し、輻輳、通信規制も徐々に解消される(図8)。

インターネットへの接続は、アクセス回線の被災状況に依存するため、利用できないエリアが発生す

る。個別のサイト運営においてはサーバーの停電対策状況に依存するが、被害の大きい地域では2割程度が接続できなくなるものと想定される。

c.上下水道、ガス
上下水道およびガスは、被災した管路の復旧、安全点検の実施等により、電力や通信に比べると復旧に長期間を要する。被災1週間後では、上水道が最大4〜7割、下水道が2〜4割、ガスが最大6割程度、供給が停止したままである。被災1カ月後には、東海地方、四国地方の上水道、東海地方のガスを除いて概ね9割程度が回復する。

d.高速道路
東名高速道路および新東名高速道路は、震度6強以上の被災エリアが点検のために通行止めとなる(図9)。

中央自動車道は、点検の後通行可能となるが、愛知県内の震度6強以上のエリアには進入できない。

中国地方は、瀬戸内海沿岸を除き震度6強以上となる地域が限定的であり、高速道路の機能は概ね維持される。被害が大きい地域の高速道路は、被災3日後には仮復旧が完了し、緊急自動車、緊急通行車両のみ通行可能となる。一般車両を含めて通行可能となるのは被災1カ月後程度と想定される。

e.新幹線
被災直後は、東海道・山陽新幹線の全線が不通になる。被災1日後以降も三島〜徳山間の不通が継続し、全線での運転開始は被災1カ月以内と想定される。