2013/08/02
防災・危機管理ニュース
(2)対策WGの被害想定
対策WGの被害想定では、モデル検討会で想定された揺れ、津波に対する建物被害、人的被害、施設等の被害、経済的な被害が公表されている。本項では、企業の地震対策を検討する上で重要なポイントとなる①施設等の被害、および②経済的な被害について概説する。
①施設等の被害
施設等の被害は、「建物・人的被害」、「ライフライン被害」、「交通施設被害」、「その他の関連事項」、「生活への影響」、「災害応急対策等」について、それぞれ、時系列的に想定される様相が取りまとめられている。ここでは、企業防災に直結する「ライフライン被害」として電力、通信、上下水道・ガスの被害を、また「交通施設被害」として、高速道路、新幹線の被害についてその概要を示す。なお、被害想定の「○割」は、面的な割合ではなく、需要家(消費者)を母数とした割合を示している。
a.電力
電力は、被災直後に最大9割程度が停電する。停電の主要因は需要側および発電設備の被災によって需給バランスが不安定になることであり、
電柱(電線)被害に起因した停電は全体の1割以下である。したがって、供給ネットワークの切替等により被災3日後には停電の多くが解消され、津波で大きな被害を受ける地域等を除き、被災1週間後には電力需要の9割程度まで回復する(図6)。
ただし、電力需要の回復状況によっては、計画停電を含む需要抑制が行われる可能性がある。
b.通信
固定電話は、電線被害、停電および輻輳(ふくそう)通信規制により被災直後、は9割程度が通話できなくなる。被災1週間後には通話支障の8〜9割が解消される(図7)。
携帯電話は、固定電話と同様に、輻輳、通信規制等により被災直後は9割程度通話できなくなる。基地局は非常用電源が発災から数時間後以降に停止するため、不通エリアは被災数時間後から翌日にかけて最大となる。基地局の停波は被災1週間後には9割程度が回復し、輻輳、通信規制も徐々に解消される(図8)。
インターネットへの接続は、アクセス回線の被災状況に依存するため、利用できないエリアが発生す
る。個別のサイト運営においてはサーバーの停電対策状況に依存するが、被害の大きい地域では2割程度が接続できなくなるものと想定される。
c.上下水道、ガス
上下水道およびガスは、被災した管路の復旧、安全点検の実施等により、電力や通信に比べると復旧に長期間を要する。被災1週間後では、上水道が最大4〜7割、下水道が2〜4割、ガスが最大6割程度、供給が停止したままである。被災1カ月後には、東海地方、四国地方の上水道、東海地方のガスを除いて概ね9割程度が回復する。
d.高速道路
東名高速道路および新東名高速道路は、震度6強以上の被災エリアが点検のために通行止めとなる(図9)。
中央自動車道は、点検の後通行可能となるが、愛知県内の震度6強以上のエリアには進入できない。
中国地方は、瀬戸内海沿岸を除き震度6強以上となる地域が限定的であり、高速道路の機能は概ね維持される。被害が大きい地域の高速道路は、被災3日後には仮復旧が完了し、緊急自動車、緊急通行車両のみ通行可能となる。一般車両を含めて通行可能となるのは被災1カ月後程度と想定される。
e.新幹線
被災直後は、東海道・山陽新幹線の全線が不通になる。被災1日後以降も三島〜徳山間の不通が継続し、全線での運転開始は被災1カ月以内と想定される。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方