表3に示すように、過去に南海トラフで発生した大地震では、過去最大といわれている宝永地震(1707年、M8.6)とその後に発生した安政東海・安政南海地震(1854年、M8.4)の間隔が147年であるのに対し、安政東海・安政南海地震とその後に発生した昭和東南海地震(1944年、M7.9)、昭和南海地震(1946年、M8.0)の間隔は約90年と短くなっている。

このことは時間予測モデルの考え方に合致しているといえる。直近に南海トラフで発生した昭和東南海・昭和南海地震は比較的規模が小さく、次の地震までの発生間隔は88.2年と評価されている。現時点で昭和東南海・昭和南海地震の発生から約70年が経過しており、次の大地震がいつ発生してもおかしくない状況といえる。

なお、後述する中央防災会議の被害想定でも用いられている最大クラスの地震(M9クラス)少なくとも最近2,000は、年間は発生していないと考えられており、その発生間隔は数千年以上と推定されているが、次に発生する地震が最大クラスである可能性はゼロではない。


3. 中央防災会議の地震 評価および被害想定


 内閣府では南海トラフ巨大地震について以下の体制で検討が進められている。

【南海トラフ巨大地震の検討体制】
①南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
②南海トラフ巨大地震対策協議会
③南海トラフの巨大地震モデル検討会
④南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会

本項では、南海トラフ巨大地震による被害を想定する「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(以下、対策WGとする)と、被害想定の算出根拠となる震度、津波高の想定等を検討する「南海トラフの巨大地震モデル検討会」(以下、モデル検討会とする)について検討結果を概説する。

対策WGおよびモデル検討会の目的と、現在までの検討経過を表4に示す。

(1)モデル検討会の地震評価
モデル検討会の地震評価では、最大クラスの地震(M9クラス)による震度分布、津波高、浸水深、到達時間等の想定結果が公表されている。表5に地震による揺れおよび津波の主な評価条件をまとめる。

モデル検討会による評価結果を企業防災に活用する際には、以下の点に注意すべきものと考える。 

①検討ケース
震度、津波高(到達時間、浸水深)ともに複数ケースの結果が示されている。地震対策を検討する際には、対象拠点の震度、浸水深等がそれぞれ最大値となるケースを選び取るのが望ましい。ただし、地震による揺れと津波がそれぞれ最大となるケースは、実現象としては同時に発生しないため、詳細な災害時対応計画、マニュアル等を策定する際には注意が必要である。

②主な評価項目
地震、津波は自然現象であり不確実性を伴うものであることから、公表されている評価結果はある程度幅を持ったものであり、想定を超える可能性もあることに留意する必要がある。また、揺れ、津波ともにマクロ的な集計であるため、特に液状化可能性や津波浸水深については、評価対象位置付近の情報を基に、より詳細な評価計算を実施することが望ましい。