2018/08/02
『事業継続の問題・課題はPDCAでやっつけろ!』
■Planは「前」と「後」の2ステップで
さて、上に述べた(1)~(3)は一つのPDCAの中で推進することはできません。それぞれ個別のPDCAをスタートさせることになります。以下ではスペースの制約もあるため、とりあえず「(1)人員」の問題を解決するものとして考えてみましょう(以下の考え方はあくまで一例であり、実効性を保証するものではありません)。
まずPlanについては、次の2つのステップで組み立てることにします。
・新体制に向けての準備
・新体制移行後のフォロー
前者では「移行プランの説明」と「引継ぎマニュアルの作成」が必要となるでしょう。「移行プランの説明」では、BCPにアサインされていた現行の担当者に集まってもらい、新体制移行に向けて各担当者が準備しておくこと、引継ぎの仕方などについて説明します。「引継ぎマニュアルの作成」は、現在自分が受け持っている役割をマニュアルとしてまとめる作業です。もしこの時点でBCPの策定手順がまだ未整備ならば、正式にマニュアル化する好機となるでしょう。
後者の「新体制移行後のフォロー」では、「新しい危機対策本部メンバーの決定」と「下位のスタッフのアサイン」が中心となります。中間管理層以上が主な対象ですから、全体会議のアジェンダに組み入れてもらうとよいでしょう。対策本部の部門ごとの役割が決まれば、あとはそれぞれの部門毎に新しいスタッフが決まります(この後に新BCM体制での教育・訓練が必要となりますが、ここでの説明は割愛します)。
「Do」のステップは、スケジュールに沿ってそれぞれのプランを実行することです。現行(=旧)担当者は事前に各自の引継ぎマニュアルを作る→新体制に移行して新しいリーダーやスタッフに役割が付与される→旧担当から引継ぎの説明を受けるという流れです。
■安心と安全の階段を1ステップ昇るために
新しい事業および組織体制に移行し、BCM全般の引継ぎを完了した時点で「Check」に進みましょう。これは新旧のアサインされた部門リーダーやメンバーにアンケートをとって確認するとよいでしょう。今までの移行作業の流れと結果については、次の2点から評価することができます。
一つは「マニュアルの整備状況」です。旧担当者が作成した引継ぎマニュアルが簡潔かつ容易に理解できるものであればOKです。当人に緊急時の役割の自覚がなかったりすると作成・提出がおろそかになり、マニュアルの一部に抜け漏れが生じます。
もう一つは「引継ぎ内容の確かさ」です。これは文書としての引継ぎマニュアルの分かりやすさのみならず、引継ぎに対する双方の熱意や関心の度合いが影響します。何を引き継いだのか曖昧である、引き継いだ業務の中身がどの程度重要なのかわからないといったことでは、その後のBCMを取り巻く活動が疎かになってしまう危険性もないとは言えません。
さて、最後の「Act」ですが、計画したことがおおむね滞りなくクリアされ、これなら合格点(70点以上でしょうか)であると考えられるなら、今回の「Plan」の手続きを正式な移行手順として残しておきます。若干の問題や課題が残るなら、少し改善を加えて、次の機会にPDCAを試してみることができるでしょう。"次の機会"と言っても、大きな経営方針の変更はそう頻繁にあるわけではないので、もっと身近で頻度の多い「人事異動に伴う担当者の交代」という局面に適用してみるのが現実的です。
PDCAを通じて大なり小なりの問題を一つ一つ解決するということは、安心と安全の階段を1ステップ昇ることでもあります。もしみなさんの会社の事業継続管理業務が形骸化してしまい、途方に暮れているようなら、一つでも二つでもその問題点や改善点を可視化し、新たなPDCAを試されてみてはいかがでしょうか。
(了)
『事業継続の問題・課題はPDCAでやっつけろ!』の他の記事
- 第19回(最終回):経営方針が変わってBCMが消滅寸前!?(適用事例13)
- 第18回:災害協定をリップサービスで終わらせないためには?(適用事例12)
- 第17回:雲をつかむようなBCPの見直しよ、さらば!(適用事例11)
- 第16回:つぶやきは災いのもと!(適用事例10)
- 第15回:その対策、予算の都合で見合わせとします!(適用事例9)
おすすめ記事
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方