2013/05/25
誌面情報 vol37
特集1データから読み解く
多様な人材の潜在力を引き出す
リーダーシップの理想像
組織が危機管理リーダーに求めている役割、資質はどのようなものだろう。インターリスク総研が行った調査では、多くの企業がリーダーの行動スタイルとして「多様な人材の潜在力を引き出し、協業を促進させるファシリテーター型リーダー」を求めている傾向が明らかになった。さらに、平常時と緊急時ではリーダーに求められる資質・特性に違いがあり、経営層と管理層でも期待するリーダーシップに違いがあることが分かった。
インターリスク総研が2012年2月に発表した「組織パフォーマンス向上への取り組みに関する日本企業の実態調査報告書」日本の企業が求めは、る危機管理リーダー像を知る上で参考になる資料だ。報告書は2011年7月~8月に、日本国内の全上場企業を対象に行ったアンケート調査結果をまとめたもの。事業継続や危機管理など緊急時におけるリーダーの資質・特性や、経営層管理職に求められる・リーダーの資質の違いなどについて言及されているのが大きな特徴だ。
3.11におけるリーダーシップ
東日本大震災では、地震や津波などによって被災しながらも、(事BCP業継続計画)を発動するなど早期に事業再開を果たした企業がいくつもあった。報告書によると、「東日本大震災の影響により、事業が一時停止したものの、速やかに事業再開が可能となった企業に共通する要因は何か」との問いに対し、リーダーシップの発揮(54.4%)、組織力(56.1%)との回答が、それぞれ過半数以上を得る高い数字となった(図表1)。調査を担当した三井住友海上火災保険コンプライアンス部企画・情報管理室課長の篠原雅道氏(当時インターリスク総研研究開発部マネジャー)「経営層やは管理職が、事業継続への取り組みに積極的に関与しリーダーシップを日頃から発揮していると、組織として積極的に危機をマネジメントする力が備わるため、復旧が早くなると考えられる」と説明する。
それでは、上記設問で、リーダーシップ以上に高い回答を得た「組織力」を向上させるために必要なことは何か?
報告書によると「組織パフォーマンス向上に寄与する要因は何だと思うか」との問いに、66.3%がトップのリーダーシップと回答し、選択項目の中で、唯一、過半数を大きく超える結果となった(図表2)。つまり、災害で被災したような緊急時に、事業を再開できるかどうかは、ネジメントのリーダーシップに、極めて大きくかかっていると言ってもいい。
組織が望むリーダー
では、組織はどのようなリーダーを望んでいるのか。調査ではリーダーの行動スタイルについて、企業内の理想と現実について聞いている。結果としては、「多様な人材の潜在力を引き出し、協業促進させるファシリテーター型リーダー(38.1%)」が他の選択項目よりかなり高い割合となった(図表3)。一方で現実は「部下など関係者が最良な状況で活躍できるよう配慮する奉仕型リーダー(34.0%)」「強烈な達成意欲を持つ牽引型リーダー(28.6%)」が上位を占めた。理想で最も高い回答を得た「ファシリテーター型リーダー(13.3%)」の割合は低く、リーダー像について理想と現実のギャップが生じている(図表4)。このギャップが、組織のメンバーにストレスを生じさせている可能性がある。
リーダーに必要な資質はどうだろう。この点、報告書では平時と緊急時に分けて、求められる資質がまとめられている。
まず、「平常時に必要なリーダーの資質・特性は何だと思うか」との問いには、「行動力(57.1%)」「決断力(55.1%)」「責任感(42.9%)」が上位を占めた(図表5)。一方、「緊急時に必要なリーダーの資質・特性は何だと思うか」との問いにも、「行動力(81.6%)」「決断力(74.1%)」「責任感(62.2%)」と同順となった(図表6)。つまり、上位1位から3位までの順位はまったく変わらない。しかし、他の選択項目、例えば「知力(平常時4.4%、緊急時1.7%)」や「情熱(平常時18.7%、緊急時(10.2%)」を見れば分かるように、上位3つの資質・特性は、緊急時にはさらに突出して高くなる。篠原氏は「リーダーは、自ら動き、決断し、そしてその結果には責任をとる覚悟が必要」とする。
経営層と現場リーダーの違い
報告書ではまた、経営層と現場リーダー(管理層)が求めるリーダーシップの違いについても指摘している。
経営層については、①先見性(58.2%)、②判断力(44.9%)、③戦略立案力(43.5%)、が40%以上と高く、次いで④統率力(35.7%)、⑤実行力(21.8%)と続く(図表7)。一方の管理層については、①指導力(52%)、②実行力(49.7%)が高く、次いで③統率力(31%)、④調整力(29.6%)、⑤判断力(28.2%)の順となる(図表8)。
組織運営を任務とする経営層と現場リーダーである管理職の役割は異なることが理由と考えられるが、緊急時においても、経営層は、組織全体の状況を見極め、方針や目標を決定し、事業継続戦略を示すことが重要で、現場リーダーは、その方針や目標に基づき、成果を確実なものとするためスタッフを動かす指導力が求められることが、数字からも裏付けられた。
ただし、現場リーダーにおいても、目標を達成させる戦術を組み立てることが必要になるという意味においては、経営層と同じように、判断力や戦略立案力も必要になると考えられる。
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方