2.企業が行うべき感染症対策
(1)感染症を正しく理解し、正しく恐れる
近年、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群など、国際的に脅威とされる感染症の流行が、その致死率の高さなどとともに報道されています。

WHOによると、エボラ出血熱がこれまで流行したときの致死率は、25%から90%でその平均はおよそ50%と言われており、この事実だけを聞くと、「日本で流行したらどうすればよいのだろう」と心配になってもおかしくありません。

しかし、次に示すようなエボラ出血熱の感染経路を理解していれば、冷静に対応することが可能です。

【エボラ出血熱の感染経路】
エボラ出血熱の患者(エボラウイルスに感染し、症状が出ている者)の体液等(血液、分泌 物、吐物・排泄物)やその体液等に汚染された物質(注射針など)に触れた際、ウイルスが傷 口や粘膜から侵入することで感染します。一般的に、症状のない患者からの感染や、空気感染はしません。
(出典:厚生労働省「エボラ出血熱に関するQ&A」をもとに作成)

もちろん、感染症は、流行の途中でもそのウイルスの変異などによって、病原性が変わることもありますので油断はできませんが、企業は、感染症に関する正しい情報を常に入手できる体制を整え、それを社内で共有することが重要です。

(2)公衆衛生の基本を徹底する
動物から感染する感染症に関する対策は、それぞれの感染症の特性を踏まえ、当該動物に近づかないことです。例えば、狂犬病であれば犬に近づかない、あるいは、鳥インフルエンザであれば鳥に近づかない、ということになります。

しかし、それらの個々の感染症対策に加えて、公衆衛生の観点から、次に示す基本的な対策を従業員に徹底することが非常に重要です。

・38度以上の発熱、咳、全身倦怠感等の症状があれば、出社しない
・マスク着用、咳エチケット(注1)、手洗いなどの基本的感染症対策を励行する
・外出する際、人混みは避け、公共交通機関のラッシュ時間帯も避ける
・咳やくしゃみなどの症状がある人には、できるだけ近づかない
・接触感染を避けるために、手で顔を触らない
・休養、栄養を十分にとり、抵抗力をつける
・室内が乾燥しすぎないようにする など

(注1)
咳やくしゃみの飛沫により感染する感染症を他の人に感染させないために、個人が咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえること。

これらの感染防止対策を理解することはもちろん大切ですが、それだけでは十分ではなく、従業員全員が実践できることが極めて重要です。

例えば、38度以上の発熱症状がある従業員が、業務多忙であることを理由に出社すれば、同じ職場で勤務する従業員の感染リスクが高まります。

これらの感染症対策の有効性は、経営層から一般の社員一人ひとりに至るまでがそれらの対策を実行できるかどうかに大きく左右されます。

(3)平常時から準備を怠らない
季節性インフルエンザやノロウイルスなど身近な感染症はもちろん、パンデミック(世界的な大流行)が懸念される感染症が日本に入ってきた場合でも、実際の流行が始まった後にできることは限られています。

職場で流行する可能性がある感染症の症状、感染経路、予防法などについて、従業員を対象とした研修や啓発などのリスクコミュニケーションを日ごろから実施することも求められます。

また、感染防止に必要とされる手指消毒用アルコール剤、マスク、ドアノブ・便座消毒用の次亜塩素酸ナトリウム消毒剤などの備蓄品の準備も平常時から実施しておくことが望ましいでしょう。

(4)自社の感染症対策を見直す
新型インフルエンザと呼ばれた「インフルエンザ(H1N1)2009」が2009年に流行したときに、感染症対策を構築したという企業が多くあります。しかし、その後の新たな感染症の流行や、2013年に施行された新型インフルエンザ等対策特別措置法などの状況変化が見られることから、これを機会に自社の感染症対策を見直すことをお勧めします。

【ここがポイント】

感染症対策は、的確に準備を行うことで、自社の従業員の感染リスクを抑えることが可能です。従業員に対する安全配慮義務とともに、自社事業を継続するという観点から、取り組みを進めましょう。

1.感染症の症状、感染経路、予防法などに関する正しい知識を従業員と共有する
2.知識とともに、感染症対策を全員が実行できることが必須
3.感染症対策に必要な備蓄も忘れない

【参考資料】
「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(厚生労働省、2009年)

(了)