2019/06/28
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク
■ 中国企業の「癒着撲滅」の仕組みとは
それでは実例として、ある中国の大手自動車メーカーの贈収賄に関する禁止条項をご紹介しましょう。
これは相見積もり参加前に、見積もり参加業者(乙)と「不正行為禁止協議書」を締結している内容です。甲は、見積もりを依頼しているメーカーとなります。
1.甲の従業員、親族、特定関係者に対する買収贈賄
2.甲の従業員或いは親族が自分負担すべきの費用を肩代わりし、支払う
3.甲の従業員に不当礼金、礼品、有価証券の贈与
4.甲の従業員及び親族と取引関係が発生し、あるいは名義貸しで取引が発生
5.無償あるいは少額金銭、市場価格より低価格で甲の従業員に物品、サービスおよび株式の提供
6.市場価格より高い価格で甲の従業員の個人物品を購入
7.甲の従業員あるいは親族、特定関係者が取引企業に投資し、重要な役職および相応の職務に就任する
8.資源を利用し、甲の従業員および親族に利益供与
9.甲の従業員から有償仲介活動
10 .甲の従業員に対して娯楽、旅行、プライベートクラブなどの娯楽場所の手配
11.甲の従業員の冠婚葬祭イベントへの参加
12.甲の従業員と賭博
13.甲の従業員に対して風俗サービスの接待
いかがでしょうか、これが中国の企業も贈収賄などの不正行為に対してここまで厳格化にしているという証左(しょうさ)です。そして、びっくりするほど事細かく禁止事項を明文化してあります。つまり、中国においてはこのくらいに明確に「やっては行けないこと」を伝えなくてはならないのです。これこそ、まさしく「郷に従った対処法」の実例です。
もちろん、このような契約書を交わしたからといって、悪弊がすぐになくなるわけではありません。しかし、この契約書があることにより抑制が効き、かつ癒着を誘い込む「隙」が小さくなるのです。日本人の一般的な考えでは、「そこまでしなくても」と思われる向きが多いかもしれません。しかし、それは全くの逆です。そこまでするのです。それ以外に方法はありません。
ですから、前回のコラムの、総経理交代に伴う不正の実例に対しての問題解決方法として有効な方策を挙げると、以下のようになります。
1)全車両に会社側でGPS端末を取り付け管理する。そして、それをドライバーにも通達
2)リース会社の株主構成、資本金の出所など詳細の調査と確認
3)リース会社との契約書に詳細な禁止事項とそれに対しての賠償を明記する
4)総経理自らも他社からの見積もりをとる
つまり、このような取り組みをすることで、会社側の癒着に対する徹底した姿勢を見せつけ、抑止力を働かせることが必要なのです。悪事を探り出して責めるのではなく、「悪事を働く方がリスクが高い」と自認させる。これこそが、性悪説社会で悪事を働く「隙」を作らないための鉄則なのです。
(了)
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