●消防士としての心構え

ニューヨーク市消防学校では、入校日のオリエンテーションで、次のような内容を話す。

「君たちが消防士になるということはそれぞれの人生にとって、とても大きな決断であり、いずれ、この仕事に就いたことがいかに素晴らしいかを実感するだろう。
今、君たちの座っているいすには過去に何万名もの消防士たちが同じように座っていた。 その中には、立派な消防士となったが、残念ながら、現場で殉職したり、もう、この世にいない人たちもいる。
周り座っている仲間を見渡してほしい。君たちは今日から、何十年もニューヨーク市の消防士として、住民を守り続ける同志であり、配属された消防署で生活を共にする兄弟や家族である。
これから消防学校で行われる数々の厳しい訓練を乗り越えた者だけがニューヨークの消防士として活躍することができるが、常に自らを育て、仲間を助け、人々の命を守り続けるために消防士としての心を育み、自分の人生を捧げるという消防士としての人生を選択するのは君たち自身である」。

そして、消防学校での訓練教育内容は、それぞれの消防士の力をどこまで最大限に引き出せるか?また、現場で必要な知識や技術をどれだけ深く理解させて、安全に実践できるかを一挙手一投足までチェックし、十分に指導し、課題を与えた後に評価し、個々の改善点を具体的に指摘して、その場その場で着実に成長させていく。

その中で、外部講師として現場で活躍する消防士たちが訪れて話す、困難な活動事例や危険な現場でのさまざまな心を動かした出来事については、初任科生たちが最も熱く「消防魂」という消防士としての心構えを学ぶ時間で有る。

その内容は多種多様な災害現場活動におけるテクニック的なことから、市の条例等の守るべき法律やルール、自分たちの帰りを待つ家族のことまでを思い思いに話し、初任科生たちも目を輝かせて聴くと同時に質疑応答にも答えてくれる。

一番、心に残る言葉は「住民の生命・身体・財産・生活を守ると同時に自分たちも同じく、消防士としての生命・身体・財産・生活をきちんと守ることができて、はじめて消防士として、その使命を全うすることができる」という内容である。

そのためには、非番日にいかに家族と大切な時間を過ごし、自分を支えてくれる家族のために、当務日の消防活動を終えたら、必ず、無事に家に帰ることをゴールにして、何年経っても消防士としての新しい毎日を迎えることができる、仲間への感謝の気持ちにも繋がっていく。