相次ぐ爆弾郵便物 日本テレビ郵便爆弾事件

日本テレビ郵便爆弾事件を覚えている方はどのくらいいらっしゃるでしょう? 1994年の年末、日本テレビに郵送された俳優の安達祐実(当時13歳)宛の封筒が爆発した事件です。封筒を手で破って開封した安達祐実の所属事務所の社員が左手親指を失う重傷を負い、近くにいた関連会社の社員も軽症を負いました。この事件は犯人が捕まることなく時効となりました。しかし、その後も、1995年には、東京都庁舎で当時都知事だった青島幸男宛に送られた小包が爆発し、開封した男性職員が重傷を負った事件が起きたり、1997年には、やはり日本テレビで、同局アナウンサー宛に届いた郵便物が爆発し、開封したアナウンス部の部長が負傷するなど、郵便物によるテロ事件はかなりの頻度で起きています。

マスコミや大企業ならば郵便物を仕分けする部門はあるでしょうが、こうした過去の教訓を生かし、担当部門だけでなく、経営者をはじめあらゆる従業員が、郵便物を開ける際には不審な個所がないかを確認することが大切だと思います。これはサイバーセキュリティにおいて、不審なメールや添付ファイルを不用意に開かないのと同じことです。

危機管理の教科書ともいわれる「タイレノール事件」

青酸カリを使った企業の脅迫といえば、グリコ・森永事件が有名です。1984年に兵庫県や大阪で相次いだ食品会社を標的とした企業の脅迫事件です。実際に小売店で青酸入り菓子がおかれ、全国を震撼させました。こうしたテロが発生した場合に、どう対応するか企業は日ごろから考えておく必要があります。

危機管理の好事例として取り上げられることが多い「タイレノール事件」を振り返ってみたいと思います。1982、製薬会社ジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社が製造するタイレノール薬を服用したシカゴ近郊の住民7人が、混入されていたシアン化合物によって死亡しました。ジョンソン・エンド・ジョンソンは「タイレノールにシアン化合物混入の疑いがある」とされた時点で、迅速に消費者に対し、12万5000回に及ぶテレビ放映と、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけました。その結果、およそ3100万本の瓶を回収するにあたり約1億USドル(当時の日本円で約277億円)の損失が発生しましたが、事件発生後、毒物の混入を防ぐため「3重シールパッケージ」を開発し発売。この徹底した対応策により、1982年12月(事件後2ヶ月)には、事件前の売上の80%まで回復したとされています(Wikipedia参照)。
ジョンソン・エンド・ジョンソンには「消費者の命を守る」ことを謳った「我が信条」(Our Credo)という経営哲学があり、社内に徹底されていて、迅速で適切な対応が取れたのはそのためだと同社の社史にも書かれています。

テロなどの脅威は未然に防ぎようがない場合もあります。しかし、もし未然に防ぎきれずに事件や事故が起きてしまったときに、どのような価値判断をし、意思決定をするかは経営者の最も重要な役割です。自社の事業やブランドのことだけを考えれば、「弊社では関係ない」「事実関係はない」などと言い切ることもできるでしょう。しかし一方で、市民の命が危険にさらされているとしたら、一時的な売り上げが落ちたとしても、何らかの注意喚起をすべきなのかもしれません。
26日午前に入ったニュース速報を、そのまま「何もなくてよかった」で終わらせてしまうのではなく、我がことのように書かかげ、明日からの自社の危機管理に生かすことが大切ではないでしょうか。


※参照:Wikipedia アメリカ炭疽菌事件, 日本テレビ郵便爆弾事件,タイレノール

(了)