2024/11/29
インタビュー
パリ2024のテロ対策

2024年最大のイベントだったパリオリンピック。ロシアのウクライナ侵略や激化する中東情勢など、世界的に不安定な時期での開催だった。パリ大会のテロ対策は成功だったのか、危機管理が専門で日本大学危機管理学部教授である福田充氏とともにパリオリンピックを振り返った。
3つのテロ計画を阻止
Q. 2024年最大のイベントにパリオリンピック、パラリンピックの開催がありました。これら二つのイベントを危機管理上、どう評価しますか?
新型コロナウイルスにより無観客で開催され、要人の来日も限られた東京オリンピックに比べ、格段に難しかったと考えられます。
フランスの対テロ担当の検察官がパラリンピックの閉会後の9月、フランス政府は期間中の三つの計画を阻止したと発表しました。一つは5月にサッカー会場でのテロを計画したとして、チェチェン出身の 18 歳男性を逮捕したもの。もう一つは複数人でパリにあるイスラエル関連の施設を標的にしたものです。
それに、フランス南西部ジロンド県出身の2人が逮捕されたケースです。フランスには DGSE(対外治安総局)という情報機関があり、インテリジェンス能力が非常に高い。事前にテロを察知し未然に防いだ点においては、パリオリンピック、パラリンピックは危機管理上、成功と言えるでしょう。
Q.成功の要因はどこにありますか?
危機管理に必要な4機能にインテリジェンス、セキュリティ、ロジスティクス、リスクコミュニケーションがあり、これらを組みあせて運用することが重要です。テロ対策でも災害対策でも同様です。
インテリジェンスは情報収集と分析活動を示し、通信傍受やネット監視、監視カメラの活用を含みます。セキュリティは入国管理や警察や軍による警備、警護。ロジスティクスは人員や物資といった必要なリソースの配備。リスクコミュニケーションはテロ対応について社会に情報を伝え、コンセンサスを得ること。パリオリンピック、パラリンピックの成功は、これらがきちんとかみ合ったのが要因でしょう。
直前にライフラインテロが発生

Q.期間中のテロはなかったですが、直前などに高速鉄道や通信インフラが被害にあいました。
開会式直前の実行は、非常に計画性が高いと言えます。ただ、鉄道の破壊は予測可能だったはずです。なぜなら、第二次世界大戦でフランスのレジスタンスがゲリラ活動として鉄道網をターゲットにしていた過去があります。それでもテロを防げなかったのはフランス政府といえども、さすがに広い国土を全てカバーはできない。3路線とも地方で起こっています。
通信網などを狙ったテロをライフラインテロと呼びます。最近のテロは難易度が上がり、要人を直接狙うことや無差別テロが難しくなっている。より間接的に社会生活を混乱させる方向に進んでいます。その結果としてのライフラインテロだったのでしょう。
全てのテロを防ごうとすると監視社会を構築しないといけない。安全・安心と自由・人権とのバランスが重要になります。フランスは自由や人権に非常に高い価値を置いている国なので、諜報活動との間で緊張関係があります。通信網の破壊は、そういったせめぎ合いが表出したケースかもしれません。
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