自然災害に備える企業の人事労務管理対策
柔軟で働きやすい労働環境は競争力の向上につながる
惠島 美王子
元警察の刑事部出身の特定社会保険労務士/健康経営エキスパートアドバイザー。交番・交通課勤務を経て、本部刑事部捜査第二課・所轄刑事課知能犯係において、詐欺・横領・贈収賄事件等の知能犯捜査に従事。その後、法律事務所、社労士事務所に転職後、2022年元刑事の見知を活かした労務リスク対策に特化した社労士事務所を設立。
2024/09/04
元刑事の社会保険労務士が解説する企業のリスク対策
惠島 美王子
元警察の刑事部出身の特定社会保険労務士/健康経営エキスパートアドバイザー。交番・交通課勤務を経て、本部刑事部捜査第二課・所轄刑事課知能犯係において、詐欺・横領・贈収賄事件等の知能犯捜査に従事。その後、法律事務所、社労士事務所に転職後、2022年元刑事の見知を活かした労務リスク対策に特化した社労士事務所を設立。
今年は、1月の能登半島地震に続き、8月には南海トラフ地震臨時情報の発表や大型台風が上陸するなど、災害が相次いでいます。近年、日本では大規模な自然災害のリスクが高まっています。このような予期せぬ事態に備えることは、企業の事業継続を確保するだけでなく、従業員の安全と健康を守る上でも重要です。
能登半島地震後に、リスク対策.comが、北陸4県に本社や支社などを持つ企業を対象に行ったアンケート調査(有効回答数250)によると、災害対応における課題で最も多く挙げられたのが「休日の災害対応ルールが徹底されていなかった」とのことでした。次いで「社員の防災意識が低かった」「休日の災害対応ルールが決まっていなかった」「主要メンバーの代替要員を決めていなかった」などが続きました。
本コラムでは、自然災害などに備えとして、時間外労働・休日労働を中心に企業の人事労務面での対策について解説します。
自然災害発生時の労働に関する方針を事前に策定することは、混乱を最小限に抑え、迅速かつ適切な対応を可能にします。以下のポイントを考慮して方針を策定しましょう。
<優先業務の選定>
災害時には限られた資源・限られた人員で事業を継続していかなければなりません。その前提条件として、最初に取り組むことが、災害時に継続すべき重要業務を特定すること。そして、それに従事する従業員を事前に指定することです。
<安全確認のプロセス>
まず、従業員の安否確認方法と、出勤可否の判断基準を明確にします。従業員の最新の連絡先情報を定期的に更新し、部門ごとの連絡網を作成する。また、電話、メール、SNSなど複数の連絡手段を用意し、通信障害に備える、など緊急連絡網の整備・見直しをしてください。そのうえで、年に最低でも1回、安否確認訓練を行い、システムの使用方法や連絡網の実効性を確認するようにしてください。
<緊急時の労働時間管理ガイドライン>
発生直後は、過度な緊張や緊迫がある状況の中で、不眠不休で業務を続けることも少なくありません。緊急時は、過重労働をしがちになり、さらにストレスを感じやすくなります。これらが原因で起こる二次被害には、怪我や事故だけでなく、業務の中で見落としをしたり判断を間違えたりと思わぬ連続ミスを起こすこともあり得ます。
あらかじめ緊急時の労働時間管理ガイドラインを策定し、災害時における労働時間の上限、休憩時間の確保、交代制の導入などを明確に定めておくことで、従業員の過重労働の防止・メンタルヘルス対策へとつなげてください。
労働基準法第33条第1項には、時間外労働等について次のような例外規定が定めされています。
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、使用者は、法定の労働時間を超えて、または法定の休日に労働させることができます。 なお、労働基準監督署長の許可が必要ですが、事態急迫のために許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければなりません。
本条は、労働時間を延長し、または休日に労働させることを可能にさせるものになります。
そのため、本条によって、労働時間を延長し、または休日労働をさせた場合にも割増賃金の支払いは必要になります。また、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働は必要な限度の範囲内に限り認められるものになります。
平時はもちろんですが、災害時にもいても過重労働による健康障害を防止するためにも、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどの対応を行い、やむを得ず月80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより、疲労の蓄積が認められる労働者に対しては、医師による面接指導などの実施といった、適切な事後措置を講じます。
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