つちふる季節(黄砂)ー4月の気象災害ー
航空機の運航や健康への影響を与える厄介者
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2021/03/29
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
大気に国境はない。そのことを実感させる現象の一つに黄砂(こうさ)がある。黄砂は東アジア内陸部の乾燥地帯の砂塵が風によって運ばれる現象で、中国奥地の黄土地帯などが主な発生源である。中国西部のタクラマカン砂漠や、モンゴルのゴビ砂漠を発生源とするものも多い。季節的には4月を中心とする春が多く、黄砂は春の風物詩と言える。
遠い乾燥地帯から海を渡って飛来する黄砂は、屋外に干した洗濯物を汚したり、自動車のフロントガラスやボンネットに積もったりする厄介者だが、その程度のことで済むならば、「災害」と呼ぶほどのことはないかもしれない。しかし、時には視程(してい=見通しのきく距離)を著しく低下させて航空機の運航に影響を与えることがあり、また最近では健康への影響も指摘されていて、風物詩としてのん気に構えてばかりはいられない。今回は、黄砂のメカニズムと、黄砂に関する情報の利用について考える。
気象観測では、大気現象を4つ(大気水象、大気じん象、大気光象、大気電気象)に大別する。黄砂は大気じん象の一種である。じん象は「塵象」と書き、水分をほとんど含まない主として固体の粒子が大気中に存在する現象をいう。「黄砂」は日本と韓国で使われる名称で、中国では「砂塵暴」と呼ばれる。また、国際一般には「ちり煙霧」(Dust haze)と呼ばれる現象に含まれる。
図1に、国内11地点における「黄砂観測日数」と「黄砂観測のべ日数」の経年変化を示す。2000年代は黄砂観測日数の多い年が目立ったが、2011年以降は、特に多い年は出現していないように見える。気象庁は、「黄砂観測日数に変化傾向は見られず、黄砂観測のべ日数は増加している。」としている。
図2に、国内11地点の観測に基づく黄砂日数の月別平年値を示す。黄砂は春に多いことが歴然としており、最多月は4月である。
黄砂現象がこのようにはっきりとした季節性を見せるのは、砂塵の発生域における地表面状態と気象条件による。すなわち、春は雪氷や凍土が消えたばかりで植物は繁茂しておらず、地面が露出し、土壌は乾燥する。しかも、冬の間大陸上を支配していたシベリア高気圧に代わって、春は大陸上で温帯低気圧が発達するようになり、強風が吹きやすくなる。アジア大陸東部で発達する低気圧が春に多いことは、本連載シリーズ・7(メイストーム)で触れた。テレビの天気番組や新聞の気象欄などに掲載されている、日本列島を中心とする天気図で、春季に図の左上のほう、モンゴルや中国東北部に中心気圧1000ヘクトパスカル未満の強い低気圧が見られたら、それは大陸上での砂塵発生のサインである。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方