2013/11/25
誌面情報 vol40
法律が後押し
アメリカで医療情報のクラウド化が普及したもう一つの理由は法律の後押しだ。アメリカでは、今年からHIPAA Omnibus ruleと呼ばれる新しい規則が施行された。HIPPAとはHealth Insurance Portability and Accountability Act「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」の略で、個人の特定可能な医療情報のプライバシーを保護する包括的な連邦法として、1996年に制定されたもの。プライバシーやセキュリティ規則について厳格な基準が定められており、違反した場合、高額な罰金が課せられる。その法律の新たな指針として誕生したのがHIPAA Omnibus ruleだ。従来の規制をさらに強化したことに加え、すべての患者が医療情報の電子コピーを取り出せることを定めた。これにより、クラウドの有効性は一層、認知されることになった。
この法律で読み取れるポイントは、医療情報は医療機関のためのものではなく、患者のためのものであることを明確にした点だ。日本では、自分のカルテやレントゲン写真などを見ることはできても、それを持ち出すことは多くの場合できない。さらに、医療機関との信頼が築けなければ、患者はまた別の医療機関へ行き、同じ様な検査を受け、その費用も徴収される。その点、アメリカでは、診察結果などの医療情報が個人の判断により他の医療機関とも共有できるため、同じような検査をする手間も費用も削減できる。

医療情報のどこまでを患者が見られるようにするかは医療機関のポリシーによって異なるが、例えばハラムカ氏が務めるベス・イスラエル病院では、医師の所見なども含めすべての情報を患者に対して公開しているという。癌などの重大な病気については診察から概ね1週間後、医師から個人への説明を終えた段階で閲覧できるようにするという。
アメリカの医療機関におけるクラウド化の流れは、2010年から開始された医療保険制度改革(オバマケア)の柱でもある。その成果は最終的には消費者(患者)に還元されるとハラムカ氏は語る。
ハラムカ氏は今年10月16日~17日の2日間、九州を訪れ、永田医師や姫野病院の姫野理事長らと意見を交わした。ハラムカ氏は自分のパソコンをインターネットでつなぎ、ベス・イスラエル病院の医療情報システムにログインし、乳がんの治療が終了した自分の妻の医療情報を実際に見せてくれた。
日本の医療機関で今後クラウドは普及すると思うか?こんな質問にハラムカ氏は、日本は世界で一番のクラウド先進国。医療でも間違いなく成功するはずだと語った。

参考文献:1.Nagata T,Halamka J,Himeno S,Himeno A,Kennochi H,Hashizume M.Using a Cloud-based Electronic Health Record During Disaster Response : A Case1.Study in Fukushima,March 201 Prehospital and disaster medicine.Apr262013:1-5.
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