2020/04/07
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
「在宅勤務の実施」が大幅に増加
まず図2は「全従業員に在宅勤務を適用した」という項目に対する回答状況である(注4)。前回と比べて「既に実施している」が大幅に増えているのが分かる。また、前回調査で「実施を検討中」だった部分が「既に実施している」に進んだように見える。

興味深いことに、「特定の従業員(certain employees)に在宅勤務を適用した」という項目に対して「既に実施している」と回答した割合はあまり変わっていない(前回66.4%/今回66.6%)。これは筆者の推測だが、在宅勤務に切り替えることがBCPなどであらかじめ決められているものに関しては、前回調査の時点で既に実施されていたのではないだろうか。その後、欧米各国において学校の閉鎖や外出制限がより厳しく実施されるようになってから、もともと在宅勤務にすることが決まっていなかった範囲にまで、適用範囲を広げたということかもしれない。
ちなみに新建新聞社様から新たに刊行された「月刊BCPリーダーズ」創刊号(注5)に掲載された、日本企業を対象としたアンケート調査では、「在宅勤務・テレワークへの切り替え」に関する回答の平均が「2. 実施したいが現時点では未実施」と「3. 実施しているが徹底できていない」の間くらいである。回答が定量的に表されていないので比較しにくいが、図2の状況に比べると日本企業の方が在宅勤務を導入する企業が少ないような印象を受ける(筆者の主観である)。
なお、日本での調査では在宅勤務しにくい製造業からの回答が多く、かつ今のところ日本では欧米ほど外出制限が厳しくないので、今後さらに状況が深刻になってきたら、日本でも在宅勤務の導入に踏み切る企業が増えるかもしれない。
セキュリティーを見直しITを活用
ITの活用に関しては、「可能な限り打ち合わせを電話会議(conference call)に切り替える」を「既に実施している」という回答が 99.7%となった(前回調査では87.4%であった)。またITに関して注目に値すると思われるのは、サイバーセキュリティーに関する項目が多いことである。具体的には次のような項目である。
- 在宅勤務となる従業員が、十分なサイバーセキュリティー対策を講じていることを確実にした(前回78.5%/今回88.9%)
- 多くの従業員が不在となる状況でのセキュリティーを確実にするために、サイバーセキュリティーの対策状況を見直した(前回64.9%/今回86.1%)
- 在宅勤務となる従業員にサイバーセキュリティーに関するトレーニングを実施した(前回項目なし/今回61.6%)
このような項目が多数設定され、また実施状況も高い数字となっているということは、調査対象の企業の間でサイバーセキュリティー対策が積極的に進められていることを表すと同時に、この状況でもなお、情報セキュリティーに関する懸念がBCM関係者に認識されているということであろう(注6)。
今回は第93回でご紹介した前回調査の記事で触れなかった項目を中心に紹介させていただいたが、もちろん前回紹介したBCPやサプライチェーンに関する設問においても、2週間でさまざまな変化があったことが分かる。ぜひダウンロードしてご覧いただければと思う。
■ 報告書本文の入手先(PDF 16ページ/約0.9MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-coronavirus-organizational-preparedness-report---2nd-edition.html
注1)BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/
注2)第93回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness
https://www.risktaisaku.com/articles/-/27124
注3)報告書は無償配布されているが、BCI会員でない方はメールアドレスなどをウェブサイト上で登録していただく必要があるのでご了承いただきたい。
注4)原文では「Implemented a work-from-home policy for all employees」となっているので、これが「全従業員を在宅勤務にさせた」のか「全従業員を在宅勤務できるようにした」のかは不明である。
注5)「月刊BCPリーダーズ」vol.1(2020年4月号) https://bcp.official.ec/items/27494870
注6)そもそも日本では、BCM 関係者を対象としてアンケート調査を行う際に、サイバーセキュリティーに関する設問が設けられること自体がまれである。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方