2020/02/13
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識
長野県で見えていた危機のシグナル
台風19号に伴う大雨により、長野県では千曲川堤防が決壊するなどの大きな被害が発生しました。その長野県でどの程度の雨量が事前に予測されていたのか、先ほどの図をもう一度ご覧ください。
県内の一部には500ミリ以上(赤色)や800ミリ以上(濃い紫色)のエリアがかかっていますが、大半は300〜500ミリ(オレンジ色)というものが事前の予測でした。300〜500ミリというのは、台風19号で予測されていた雨量の分布の中ではあまり目立たない数字です。しかしこの数字は長野にとっては危機のシグナルでした。
ふたを開けてみると、台風19号により長野県内では多いところで300ミリ前後の降雨となりました(*1)。台風19号では神奈川県の箱根で約1000ミリを記録しているので、長野県で降った300ミリは事後の数字を見ても桁違いに小さいように思われるかもしれませんが、長野の「基準」で見れば普段は観測されないような異常な雨量に相当しました。地元気象台や防災科学技術研究所は当時の雨を振り返って次のようにまとめています。
・県内の14のアメダスで、それまでの日降水量の記録を塗り替える雨が観測された(*1)
・長野県の千曲川流域の24時間雨量は「100年以上に1回」という頻度でしか発生しない非常に稀な雨だった(*2)
他の場所と比較すれば長野では少ない雨量でも災害が起こり得るという理解があれば、台風が来る前に示されていた「300〜500ミリの降雨」という情報から切迫性を見抜けたかもしれません。
重要なことは、地域ごとの「基準」で雨量の情報を見ていかないと危機のシグナルを取りこぼす恐れすらあるという点です。ぜひそのことを覚えておいてください。
なお、さまざまな情報の中から簡易的な「基準」を作る方法については、今後カバーしていきたいと思います。
(参考資料)
*1 長野地方気象台「令和元年台風第19号に関する 長野県気象速報」
https://www.jma-net.go.jp/nagano/topic/topic_20191018_3.pdf
*2 国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門「令和元年台風第19号に伴う大雨と強風について(速報)」
http://mizu.bosai.go.jp/wiki2/wiki.cgi?page=%CE%E1%CF%C2%B8%B5%C7%AF%C2%E6%C9%F7%C2%E819%B9%E6%A4%CB%C8%BC%A4%A6%C2%E7%B1%AB%A4%C8%B6%AF%C9%F7%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6%A1%CA%C2%AE%CA%F3%A1%CB
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