2019/08/08
知られていない感染病の脅威
なぜ流行を繰り返しているのか
1976年以降現在まで、エボラ出血熱の流行を繰り返しているコンゴを含む西アフリカでの、エボラ出血熱防疫活動には問題が山積しています。その最大の問題点は、エボラ出血熱発生地域の著しく治安の悪いことです。2019年1月以降、医療従事者やエボラ出血熱を治療する施設などへの襲撃が198件も発生しており、医療従事者など関係者7名が死亡、58人が負傷しています。
もう一つの深刻な要因は、地元民が医療機関および医療従事者を信頼していないことです。死亡したエボラ出血熱患者の3分の1は、医療施設以外の場所で死亡しています。患者の多くは医療施設での治療を求めておらず、その結果、近隣の住民や親戚にウイルスを感染させてしまうことになっています。
このことは、エボラウイルスの感染拡大を止めるのに必要な、ウイルス感染経路の解明を困難にしています。多くの病例で、医療従事者が患者と接触できていないようです。この状況を打破するためには、医療従事者は、その地域社会との関係や結びつきを築く努力を重ね、地域住民の信頼を獲得せねばなりません。難しいことですが。
資金不足もエボラ防疫対策の実施を困難にしています。WHOは、エボラ出血熱対策に必要な資金が不足していることをすでに公表しています。具体的には、2019年2~7月までの間に必要な資金として、9800万ドル(約108億円)を見積もっていたのですが、現実には5400万ドル(約60億円)不足しているようです。
さらに、アフリカにおける獣医療の著しい遅れです。エボラ出血熱他アフリカに存在する、危険度の高い感染病のほとんどは人獣共通感染病です。従って、人に感染する前の動物(特に野生動物)におけるウイルス侵入状況を十分把握した上で防疫対策を講じ、動物から人へのウイルス感染防止を図らねばならないのですが、現状では不可能ではないかと懸念されます。
(了)
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方