【対応①:現場情報やその分野の専門家にアクセスが可能な社会関係資本を平時から構築する】
第一に、災害対応エコシステムの構築には社会関係資本の存在が欠かせません。自治体、地域住民、災害ボランティア、そしてベンダーとの関係は、日頃、災害時を見越したものとして構築していく必要があります。デジタルボランティアといわれる、災害時に使われるさまざまなITツール(マップなど)開発を主たる目的とする人々との連携も重要となります。同じ分野における、同程度レベルのドメインナレッジを共有する社会関係資本の存在は、いざという時の助けとなります。現場情報へのアクセスが何よりも重要となります。一方で、重要な情報システムの復旧を外部の資本に頼りきりというのは必ずしも望ましい姿ではありませんので、必要な社会関係資本を構築しながらも、組織内の自助力を上げていく努力を続けていく必要があります。

【対応②:多様なステークホルダー間で組織資本を共有する】
日頃の社会関係資本の構築と同じくらい大切なのが、各ステークホルダー間における共通の組織資本の作成です。各ステークホルダーについて、ここでは特に限定をしませんが、工場をお持ちの会社であれば工場(一つでも複数でも)と本社、取引先などが当てはまると思います。具体的な対策として、共通のデータバックアップシステムを整備したり、マニュアルを共通化することが考えられます。組織資本の共通化で重要となるのが、対応の手順やプロセスを関係者間で共有することです。情報システムを利用する場合であれば、該当ソフトやハードウェアについて同等の知識を保有している必要があります。社外のシステムの利活用(SNS情報や携帯キャリアの災害伝言板など)についても議論しておくと有益だと思います。

【対応③:日頃使いなれたシステムやサービスを使い、広く使われるスタンダードを活用しながらドメインナレッジを担保する】
日頃使っていないツールは災害時に使えないため、災害時のツールは普段使いしているシステムやサービスの延長線上にある必要があります。どのようなツールを使ったとしても、そこで取り扱うデータが標準化されていることが重要です。エクセルであっても、スマートフォンであっても、異なるアプリケーションで異なる場所からアクセスした場合でも、同じデータフォーマットを触っていることが大切です。例えば今後の災害対応について、国では、避難者の特定については、マイナンバーを活用できるのではないかとの議論が始まっています。企業においても、従業員固有のIDや、共通フォーマットを使いながらデータの標準化を進めていくことが可能かと思います。このような対応が結果として、災害時におけるドメインナレッジを担保することにつながります。

【対応④:社内における人間資本(責任者や特定のノウハウ保有者)の喪失を念頭においた命令系統を作成する】
災害対応のためのBCPに、人間資本が喪失した場合の指揮系統の代替案を明記することが重要となります。特に、特殊な知識を要する業務(情報システム管理や工場のオペレーション管理など)に従事している人員が被災した場合に備える必要があります。災害時に必要となる物資は事前に備蓄することができますが、人間資本や一部の組織資本はどこかに備蓄しておくことができません。加えて、法的もしくは公的な要件に沿う必要がある人間資本(多くはシンボル資本を兼ねている)が喪失した場合の影響の大きさも考慮する必要があります。外部のキャピタルでは代用ができないケースを事前に想定することが求められます。

以上、「災害対応エコシステム」設計のための対応策ということでこれまでの議論をまとめました。災害についての研究は、災害の性質上、どうしても事後から振り返ることが多くなります。どんなに事前に準備をしても、想定通りにいかないことも多くあります。一つ一つが状況も対応も異なる災害であったとしても、振り返って分析をしてみることで共通点として見えてくる発見もあります。これまでの話の中で、何か一つでもみなさんが新たに気づいたり、発見されたことがあれば本望です。この連載のはじめに、クリストファー・アレクサンダーが論文に書いた「都市はリビング・システム(生きたシステム)である」というフレーズをご紹介しました。災害は事前の予測が不可能な事項も多く、状況も刻々と変化していくダイナミックな現象であり、その対応にもダイナミックさが求められます。創造的対応は創造的であるがゆえに説明が抽象的になりがちで、この連載も概念的な記述が多々登場し、分かりにくい部分がありましたことお詫びいたします。ただ、概念を用いるからこそ見えてくる発見もあるということを、少しでもお伝えできたとしたら嬉しいです。お付き合いいただきましてありがとうございました。

(了)

次回の連載は、「災害と情報」を予定しています。