被災地であった母乳育児支援

現在、9割の人が母乳育児ということを書きましたが、この9割の人まですべてがミルクを求めてしまうと自治体のミルクの備蓄は当然足りなくなります。

写真提供:あんどうりす

こちらは首都圏近郊の、人口は1万人ほどの自治体での備蓄品の写真です。粉ミルクの行政での備蓄品は400食分とあります。新生児の赤ちゃんはミルクだと1週間に60回飲むと言われているので、計算すると1週間だとわずか赤ちゃん7人分の備蓄です。すべての赤ちゃんに配っていたら足りなくなるのは必然ですよね。母乳の赤ちゃんには母乳が継続できるように支援して、ミルクが必要な赤ちゃんに集中して継続して渡されることが日本でも大切なのではと思います。

ところで、災害時ミルクが届いたというニュースはわかりやすいので華々しく報道されがちですが、そこにいる母子が母乳を継続してあげたなんてことは今までニュースで見た事がありません。地味すぎて報道されていないだけかもしれません。

こちらは、参議院東日本大震災復興特別委員会2018年3月22日議事録です。報道ではなくて、議会の議事録ですから、あまり読まれることも知られることもないのかなと思ったりしますが、石巻日赤病院での事例が記載されています。

石巻日赤病院で東日本大震災後4月までの分娩数が81件あり、長時間断水の中、母乳育児支援で100%の赤ちゃんを守ったという事例です(注:正常時と書かれているのは正常児、つまり月満ちて生まれた健康な赤ちゃんという意味です)。

今では、ミルクで子育てしている人を苦しめるから使われていない言葉である「完全母乳」という言葉が使われてしまっているので、傷つく方もいらっしゃるかもしれませんが、その部分ではなく、あまり報道されていないけれど、国際基準に合致したこういう事例もあるという事は、自治体の備蓄の方針の参考として考慮すべきだと思っています。

災害時、母乳がストレスで出ないように感じて大変な思いをされた方が存在したのは事実ですが、その原因の分析として、あまりのショックで一時的に母乳が外に出ない状況だったのか、支援がなかったのか、支援が不適切だったのか、不安にかられてしまってそう思いこんでしまったのか、それとも避難所が落ち着かなかったのか、何だったのか原因分析が進んでいません。国際基準にあるようなアセスメントの体制が、今まではとられていなかったから、分析されていないのです。それなのに、今なお防災レクチャーで「母乳が出なくなる」と過剰に母親たちを脅してプレッシャーを与えていないでしょうか?

意図していないにしろ、親切心からであっても、ミルクのプロモーションを行政が前面に立って推し進めてしまったり、母乳育児をしている人にまでミルクの使用や備蓄を勧めてしまうと国際基準に反してしまいますし、先進国においても、災害時のリスクを高めてしまうことになります。

親子のきめ細やかなニーズに対応することを目的として、公平な立場で、法に基づき災害対応できるのが自治体です。

災害前の今だからこそ、自治体の皆さまと母子にとって最善の方法を考えていければと思っています。母乳でもミルクでも、子育て方法について親が非難されることなく、どちらにも支援の手が行き届き、また、母親が、自分の意思に反する強制をされることもなく、そして必ず赤ちゃんの命が守られるように、みなさんと具体的な対策を考えていきたいと思っています。

3回にわたっての同じ内容(しかもいつもより真面目な内容)にお付き合いいただきありがとうございます!

(了)