合意の島

チャールズ:この夏は、「フロントライン・アソシエイツ」と協力して、フロントラインの交渉者向けに既存のフレームワークをAIツールに組み込む取り組みを進めていました。その一例が「合意の島(Islands of Agreement)」という考え方です。これは、持っているすべてのデータを4つの異なる列に分類します。最初の2列は、事実に関する合意と争点を整理し、次の2列では、社会的規範に関する合意と争点を整理します。2011年の南相馬での経験では、事実や規範について相手と合意すれば協力が得られると思い込んでいましたが、それは大きな間違いでした。

ジョエル:つまり、相手の考えを変えようとしたのですか?

チャールズ:そうではなく、合意さえできれば協力関係が築けると考えていたのです。でも、実際には、合意している事実や規範に焦点を当てるべきでした。たとえば、NPOが地域に貢献する価値があるかどうかや、コミュニティのニーズに関する事実を巡る認識の違いがありました。当時の私の考えでは、「相手に事実を理解させるか、NPOの価値を納得させることができればうまくいく」と思っていました。しかし、実際には最初に共通の認識や合意できる部分を見つけるべきだったのです。

ジョエル:そのような具体的なフレームワークがあると、合意形成の可能性が高まるのですね。

チャールズ:そうですね。信頼関係とラポール(親密な関係)が築けると、交渉はうまく進みます。実際、私は2007年に15件の寄付契約からスタートし、最終的には2400件にまで増やすことができました。そのすべては、冷たい電話やセールスではなく、信頼関係の構築によるものでした。たとえば、食品会社との場合、食の安全を重視することを共通の目標にし、自治体との場合は「誰も被害を受けないこと」を共有の懸念としました。

ジョエル:AIの利用は、多くのリスナーにとって新しい話題かもしれませんが、すでに多くの仕事に取り入れられています。災害対応に関わるかどうかにかかわらず、AIは日常の業務にも影響を与える大きなテーマです。つまり、AIにデータや観察結果を入力すれば、AIがより適切な評価を返してくれる、ということでしょうか?

チャールズ:その通りです。私は2011年の援助活動に関する難しさを記した本の一部をAIに入力し、「合意の島」を使って分析しました。その結果、合意できなかった事実や規範が明確になり、当時どのように相手を説得しようとしたかがはっきりと見えてきました。もしこれを当時利用できていたら、「ここでの争点は避けるべきだ」と判断できたでしょう。たとえば、相手が「NPOは価値がない」といったようなことを伝えてきた場合、それを認めたうえで、合意できる部分に話を進めるべきだったのです。

ジョエル:なるほど。つまり、共有できるポイントに焦点を当て、話を進めることで、相手も納得しやすくなるということですね。

チャールズ:そうです。人は、共有される価値観や事実に触れたときに、理解されていると感じ、つながりを感じます。

ジョエル:なるほど。

チャールズ:このようなアプローチを用いることで、食品会社との関係を築くことができました。初めての会話では、「食品が欲しいわけではありません。信頼関係を築きたいのです。あなた方のペースに合わせて関係を深めていきます」と伝えていました。食品会社は自社の評判や食の安全を重視しており、私も同じ懸念を共有することを強調しました。これにより、共通の懸念を基盤とした信頼関係を築くことができたのです。

ジョエル:それは非常に興味深いアプローチですね。人々がより安心できるような方法を使って、交渉を進めるというのは、多くの人にとって新しい視点かもしれません。AIを活用することで、こうした交渉や評価プロセスをどのように改善できると考えていますか?

チャールズ:AIは、多くの情報を迅速に処理し、複雑なデータを統合して、交渉の場面での意思決定をサポートすることができます。AIを使うことで、過去のデータや評価の結果を元に、どのように進めるべきかの方向性をより明確にすることができます。AIはあくまで補助的なツールですが、正しい情報に基づいて判断するための有用な手段になります。

ジョエル:なるほど。それは、災害対応だけでなく、他の多くの分野でも役立ちそうですね。このような視点を持つことで、今後の災害対応や人道支援に対する理解が深まるでしょう。

チャールズ:そうですね。私たちの目的は、より効果的で持続可能な支援を提供することです。そのためには、正確な評価や効果的な交渉が不可欠であり、AIを活用することで、より良い結果を得ることができると信じています。

 

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