人権を尊重したサプライチェーンの構築が求められている。先行して法整備を進めてきた欧州を中心に、各国で規制強化が進む。日本政府も2022年にガイドラインを策定し、取り組み支援に動き出した。日本企業が人権を尊重する活動である人権デューデリジェンスに取り組むために、何が必要か。グローバルなプラットフォームでサプライヤーの労働環境を含めたESG関連の情報収集と分析、提供などを行うSedex。同社のインプルーブメントエグゼクティブである山本梓氏とリレーションシップマネージャーの日野陽介氏に聞いた。

(提供:Sedex)

人権に配慮した責任ある調達とは

(左から山本梓氏、日野陽介氏)

ーー人権デューデリジェンス(DD)を含めた企業が求められる責任ある調達について、世界的な動向はどのようになっていますか?

山本梓氏(以下、敬称略):最近の動向で最も影響が大きいのは、企業のサステナビリティ関連の情報開示を強化するためにEU法として制定され、2023年1月に発効したCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)。そしてEU域内外の企業に対して人権と環境のDD実施を義務づけた欧州議会の本会議で2024年4月に採択されたCSDDD(Corporate Sustainability
Due Diligence Directive)があります。欧州域外の海外の企業も欧州内である程度の売上を上げていれば、規制の対象になります。

規制の拘束力も、以前はソフトローといって、取り組みを求めても任意性が高かったのですが、最近では取り組みを強く要求するハードローにプラスして、罰則といったペナルティーが課されるようになっています。

日本では政府がソフトロー的なアプローチに留まっているのが現状です。一方、サプライチェーンの末端でさまざまな問題が起こっている東南アジア諸国では、法規制はないとしても実務的に適応し、先進的な取り組みが進んでいる印象です。

ーー人権に配慮した責任ある調達の取り組みの特徴は何でしょうか?

画像を拡大 人権・環境侵害リスクがもたらす負の影響 (提供:Sedex)

山本:サプライチェーンの人権問題に関しては、特有の難しさがあると感じています。気候変動に対処するための国際的な枠組みであるパリ協定と比較すると理解しやすいでしょう。

パリ協定では「世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求する」という世界共通の定量的な目標が掲げられています。しかし、人権問題に関しては、国や地域、文化による特性や問題の複雑性、定性的なデータ測定の難しさなど、脱炭素に向けた取り組みと同じアプローチでは対応が難しいことが多くあります。

よくいただく質問にあるのが、企業としてどこまで取り組めばいいか。これは、誰かが唯一の答えを持っているわけではありません。だからこそ、各社、各人が自ら考える必要があります。

ESGなどの担当者が抱える悩みとしては、実務でサプライヤーと対面している調達部門の協力が得られるか。実際に取り組むときには、調達部門に関わらず、さまざまな部署の協力がなければ進められません。説明会への参加など、いろいろな人を巻き込む必要があります。