2024/07/18
インタビュー
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向

5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
指導目的でも「人格否定」「さらし」はパワハラ
ーーハラスメントに関する、最近の動向を教えてください。

パワハラやセクハラなどのハラスメントを含め、企業は従業員が安全に仕事をできる環境を整えなくてはなりません。この職場環境配慮義務は、安全配慮義務の一つ。平成15年の川崎市水道局事件の判決がきっかけになった概念です。
水道局の職員が、先輩や同僚からいじめにあって自殺してしまった。事故や病気だけでなく、職場の人間関係からもたらされる危険性についても、企業は配慮する義務があるとした判決です。
これまでパワハラやセクハラでは、損害を与えた従業員がいて、企業が問われていたのはあくまで使用者責任。それが最近は、職場環境配慮義務の債務不履行責任が問題になる。具体的にはハラスメントの予防措置や相談後の事後対応などの環境を整える義務を果たしているか。企業の責任がストレートに問われる時代になっています。
一方で、ハラスメントと感じれば、その行為がハラスメントになると考えるのは間違いです。
ーーパワハラについて、担当者が知っておくべきことは何でしょうか?
まず、パワハラ6類型を知ることが重要です。どういった行動が6類型に該当するかが厚生労働省の指針に書かれていますので確認しましょう。その中で特に注意すべきなのが「精神的な攻撃」である暴言。どこまでが暴言か、担当の方は悩まれると思います。指針には「人格否定する言葉」が入っていると暴言となり、パワハラに該当すると記載されています。裁判では、もう少し踏み込んだ判決が出ています。
平成26年の社会福祉法人備前市社会福祉事業団事件では、業務に関連した叱責がパワハラに該当すると判断されました。毎日、場合によっては介護サービスを受ける利用者の前で「以前もできなかったよね」といった、過去をも持ち出して責め立てるように叱責していたケースです。
判決では、相手の能力や性格に応じた指導ではないとされました。ここから、人格否定だけでなく相手の能力や性格に応じた指導かどうかが、パワハラ判断基準の一つになっています。
ーーパワハラを危惧し、指導が萎縮するとの声があります。
勘違いしている人が少なくないですが、当然ですが裁判でも業務上の指導をまったく否定していません。パワハラ対策を進めると業務指導に支障が出ると考えるのは誤りです。パワハラ問題の本質は、指導の中に人格否定の言葉を入れたり、みんなの前でさらしたりするようなやり方にあります。
例えば、平成21年の富国生命保険ほか事件。ある営業担当者が保険に加入させる際の義務である告知事項に関して説明をしていないのではと、上司が疑った。それで、みんなの前で問いただした。上司の行動は当然と思われるかもしれません。でも裁判官は、それをパワハラと認定した。なぜなら、その営業担当に告知したかどうかを聞くのは、名誉に関わる事柄。だから、上司は別室に呼び出して聞くべきだったとの判断です。
一方で、会社からパワハラの疑いをかけられて弁護士に相談しに来る人も多い。よくあるのが同僚間、または部下から上司へのアプローチはパワハラにならないとの誤解です。ハラスメントの根本にある「優越的な関係」は上下に限りません。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方