(出典:Shutterstock)


かつて本連載で、ノースカロライナ州立大学のERM Initiativeと米国公認会計士協会(AICPA & CIMA)とが共同で発表した調査報告書「Global State of Enterprise Risk Oversight」の2022年版を紹介させていただいたが(注1)、2023年10月末にその2023年版が発表されたので、今回はこちらを紹介させていただきたいと思う。

これは企業の経営幹部983人を対象として実施したアンケート調査の結果から、企業におけるERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)(注2)への取り組み状況を把握しようとするものである。回答者の内訳を地域別に見ると、米国からの回答が419人、欧州が356人、アジアおよびオセアニアが118人(注3)、アフリカおよび中東が90人となっており、2022年版と比べると回答者が200人以上増えているが、米国からの回答は若干減っており、他の地域からの回答が増えている。特に欧州からの回答の増加が顕著である。

なお本報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.aicpa-cima.com/resources/download/2023-global-state-of-enterprise-risk-oversight-6th-edition
(PDF 22ページ/約 13.2 MB)


2023年版では「Managing the Rapidly Evolving Risk Landscape」という副題が付けられた上で、調査における主な発見(key findings)として次の6項目が示されている。

・Risk Environment Growing in Complexity(複雑化するリスク環境)
・Risk Oversight Maturity Lacking(リスク監視の成熟度の欠如)
・Value of Risk Oversight in Question(リスク監視の価値が問われている)
・Leadership of Risk Oversight Requires Attention(リスク監視のリーダーシップに注目すべき)
・Uncertain Levels of Board Engagement(取締役の関与の度合いが不明確)
・Investment in Risk Identification Practices Warranted(リスク特定業務に対する投資が必要)

まず、複雑化するリスク環境に関連するデータが図1である。今回の回答者のうち68%が、リスクの量(volume)と複雑さが増していると回答しており、その割合は増加傾向にあるという。図1を見るとアジアおよびオセアニアにおける増加が顕著である。

画像を拡大 図1.  リスクの量や複雑さが増しているという回答の経年変化 (出典: The ERM Initiative at NC State University and AICPA & CIMA / 2023 Global State of Enterprise Risk Oversight)


これを見ると、2020年の新型コロナウイルス・パンデミックを境に上昇したように見える米国、パンデミック後も増加傾向が続くアジアおよびオセアニア、パンデミック前から増加傾向が始まっているアフリカおよび中東という具合に、地域による違いが現れているのが興味深い。欧州において2023年の数字がわずかながら増えているのは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響かもしれない。