シナリオ分析が描き出す将来のリスク

2022 年は、東京証券取引所がプライム市場の上場会社にTCFD 提言に沿った気候変動リスクの情報開示を求めた最初の年にあたる。3月決算の企業をはじめ、多くの企業が開示している。企業のTCFD 開示をサポートし『TCFD 開示の実務ガイドブック―気候変動リスクをどう伝えるか』(中央経済社)の執筆陣の一人でもある、KPMG あずさサステナビリティの鳥井綾子マネージャーに、TCFD 開示の取り組みについて聞いた。

 

KPMGあずさサステナビリティ マネージャ― 鳥井綾子氏

気候変動リスク開示の動向

Q. 東京証券取引所(東証)がプライム市場に上場する企業にTCFD提言に沿った情報開示を求めるようになりました。現在の動向を教えてください。
2017年にTCFDが「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言・最終報告書」を発表すると、第1陣として気候変動の取り組みが進んでいた企業が先行してTCFDに賛同し、その後2019年に「TCFDコンソーシアム」が設立され、情報開示に取り組む企業が増えました。

 

ご指摘のように東証がプライム市場にTCFD開示を求めたことで、さらに多くの企業がこの2~3年でTCFD開示を実施しています。

現在の問い合わせは、一通り情報開示まで経験した企業が2周目、3周目の取り組みとしてシナリオ分析を精緻化したいという要望がメインになっています。

Q. TCFD開示が本当に企業価値の上昇につながっているのでしょうか?
例として、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「ESG活動報告」の中で、GPIFが選定したESG指数のパフォーマンスが市場平均をおおむね上回る結果となったと伝えています。よって、ESG対応と株価へのプラス影響は一定程度ありそうです。

一方で、投資家はTCFD提言に沿った情報開示に満足していないのが現状です。理由の一つとして、形式が統一されていないため各社の気候変動リスクや機会、取り組みを比較できないことや、気候変動が与える財務影響の説明が不十分な点が指摘されています。

現在、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)はグローバルで高品質なサステナビリティ報告基準を開発することを目的に、TCFD開示項目をベースにした気候変動の開示基準を策定中です。

これまでは開示をするだけで評価されてきたものが、要求のレベルが上がり、今後はより高いクオリティーの情報が求められるようになってきます。