第158回:英国政府による国家レベルのリスクアセスメント
英国内閣府 / National Risk Register 2020 edition
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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本連載の第154回で、米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)が公開しているNational Risk Indexを紹介させていただいたが(注1)、今回紹介させていただくのは英国内閣府によるNational Risk Registerの2020年版である。
これは国全体としてのリスクアセスメントの結果をまとめたもので、2020年12月に発表された現時点での最新版である。下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.gov.uk/government/publications/national-risk-register-2020
(PDF 140ページ/約 3.7 MB)
National Risk Registerについては紙媒体の『リスク対策.com』2010年5月25日号(vol.19)に、岡部紳一氏による解説が掲載されているので、こちらも併せてご参照いただければと思う(注2)。
本文中の説明によると、英国政府では、内閣府(Cabinet Office)内に設置されている市民非常事態事務局(Civil Contingencies Secretariat)が、国家レベルのセキュリティリスクアセスメントを科学的な手法に基づいて省庁横断で実施しており、その公開版としてNational Risk Registerが作成されているとの事である。そのような背景もあって、以前にご紹介した米国のFEMAによるNational Risk Indexよりも網羅的なリスクアセスメントとなっている(注3)。
また、分析・評価の対象も随時見直されており、前回の2017年版にはなかった「細菌の薬剤耐性」(antimicrobial resistance)、「大規模火災」(major fires)といったリスクが評価対象に追加されている。
文書構成は次のようになっている。Chapter 3では個人や地域社会がどのようにリスクに備えるべきか、非常事態にどう対処すべきかについて、全体的な説明が6ページにわたってまとめられている。またChapter 4では分析・評価の対象となっている個々のリスクに関する解説が記載されており、Chapter 4がページ数の8割以上を占めている。
Chapter 1: Introduction(序論)
Chapter 2: Risk assessment(リスクアセスメント)
Chapter 3: Individuals and communities(個人と地域社会)
Chapter 4: Risk summaries(リスクの概要)
図1はChapter 2に掲載されているリスクマトリクスである。横軸にこれらのリスクが顕在化する可能性(Likelihood)、縦軸に顕在化した場合の影響の大きさ(Impact)がとられている。
この結果は2019年に行われた国家レベルでのセキュリティリスクアセスメントの結果に基づいていることから、新型コロナウイルスの影響は考慮されていないようである。しかしながらパンデミック(25)が最も上にプロットされており、パンデミックが発生した場合の影響が非常に大きいと評価されていたことが分かる。ちなみにパンデミックと同等の重大な影響があると評価されているのは、大規模なCBRN攻撃である(注4)。
前述した『リスク対策.com』2010年5月25日号の解説記事には、2010年版のリスクマトリクスが掲載されているが、これと比べると2020年版ではリスクがかなり細分化されていることが分かる。特に気象現象による災害(マトリクス中では12〜18)が具体的に区分されているのが目立つ。また2010年版ではCBRN攻撃が含まれていない。
パンデミックについては2010年版でも最も影響が大きいものとして認識されていたが、顕在化する可能性がもっと高く評価されていた。これは恐らく2009年に新型インフルエンザ(当時)の流行が発生した影響であろう。
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