2021/07/01
気象予報の観点から見た防災のポイント
水俣土石流災害―7月の気象災害―
水蒸気画像
2003(平成15)年7月に、熊本県水俣市に豪雨を降らせた気象の姿を俯瞰してみる。図1(左)は豪雨発生の約30時間前に当たる18日21時の地上天気図である。黄海北部に低気圧があり、寒冷前線が対馬海峡に描かれている。この寒冷前線は、黄海から南東進してきたが、動きが鈍化しており、この後は停滞前線に変わっていくものとみられる。この前線は、梅雨現象の立役者であり、「梅雨前線」というニックネームでも呼ばれる。
地上天気図と同じ時刻の気象衛星水蒸気画像を、図1(右)に示す。水蒸気画像とは、大気中の水蒸気量を鋭敏に捉える波長6.2ミクロン帯の赤外線の強度を測定した画像で、対流圏中上層で水蒸気の多い領域が白く、少ない領域が黒く表示される。本州、四国、九州は白い領域(明域という)にあり、対流圏中上層が湿っていることが分かる。
図1(右)の水蒸気画像では、朝鮮半島から東シナ海北部にかけて、黄破線で囲った黒々とした領域(暗域という)が印象的である。そこは、対流圏中上層の水蒸気量が極めて少なく、乾燥した低温の空気が流れ込んでいることを表している。図1(左)の地上天気図と対照させて位置関係を見ると、この暗域は、黄海北部にある低気圧中心の東側から南側にかけて広がり、おおむね寒冷前線の北西側に当たる。
水蒸気画像に見られる明域と暗域の分布から、強い雨をもたらす対流活動の予想に関して示唆の得られることがある。暗域の東縁部、明域との境界付近では、強い対流活動がしばしば発生することが知られている。図1(右)では、九州北西部は特に注視すべき場所である。
その後の6時間ごとの水蒸気画像を図2に示す。案の定、というか、図1の6時間後の19日3時には、早くも九州北西部から九州の西海上にかけて、新たな積乱雲列(橙矢印)の発生が見られる。この積乱雲列は、19日の明け方に、福岡県太宰府市に集中豪雨をもたらした。
図2において、19日15時には九州北西部の積乱雲が弱まり、対流活動が小康を得たことが分かる。しかし、21時の画像では、黄海から東シナ海北部にかけて、幅の狭い暗域が割り込んできているのが注目される。この後、割り込んできた暗域の東側で強い対流活動が生じた。20日3時の画像で熊本県付近に見られる発達した積乱雲塊(赤矢印)こそ、水俣に豪雨をもたらしたものである。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方