3、具体的な4つの体験要因について

上記以外にも消防士、警察官、沿岸警備隊、戦争体験者などがPTSI等の心的ストレスについて語っているビデオはたくさんありますが、ほとんどの場合、下記の4つの体験要因が深く関わっているような気がいたします。

①同一性要因:自分の子と同じくらいの子ども等が悲惨な姿で死を遂げ、その子の最後に直接的に関わった。

②親近性要因:被災者が肉親や身近な人、または、同僚などで、特に一緒に訓練や現場活動をしていた仲間が亡くなった時、その瞬間に居合わせた。

③社会性要因:全力で救助活動に関わったにもかかわらず、要救助者が現場や搬送中の救急車内で死に至り、メディアや野次馬、家族、関係者からの一方的な解釈による消防組織、または、個人への誹謗や中傷、誤解のある報道等。

④組織的要因:組織内での理解できない強引な取り決めやシステム運用、一方的で不平等な交換条件付きパワハラ、内部放置的人間関係等。

どれも事前にメンタルマネージメント等のセルフメンタルセッティング(自己事前精神設定)を行うことで、かなり予防できるのかもしれません。

4、セルフメンタルセッティング(自己事前精神設定)のコツ

セルフメンタルセッティング

①現場活動中は、その瞬間瞬間で体験することすべてが次の現場に活かせる可能性があることと捉え、死者に遭遇した場合、その死に至った要因を把握し、死者の声を聞き、同じような死亡事故を出さないための予防活動などを行うこと。

②大災害の現場でも各隊員がそれぞれの役割を早い時点で振り分けられ、災害の変容にとらわれること無く、自分たちのペース配分でそのポジションに与えられた作業を集中して行うこと。

③災害の現実に心を奪われていては、自分たちのペースを失い、消防力の低下につながる。また、2次災害や活動に支障を来し、適性判断を損なう可能性も高くなり、結果的に自己のメンタルを責める結果となりがち。

④救急隊員の場合、家族から救急活動内容の事後非難や誤解・混乱による暴力的言動を受けることもあるが、応酬話法を習得し、すぐにすべてを誤らず、部分的に理解を示しながらも、きちんと誤解している部分は正せるような対話トレーニングを行う。

⑤メディアからの「大丈夫でしたか?」という質問に「私達は日頃から鍛えていますので、何ともありませんでした」というような視聴者から誤解されるような答えをしないように気をつけること。現場で家族や関係者へ発する言葉は、丁寧に選び、また、潤いのある言葉を発すること。

⑥もし、自分でコントロールできないと感じたときには信頼できる上司や話せる相手に話してみること。自分の心が弱いとか、鍛え方が足りないなどとは思わないこと。

⑦特に生活や職務に支障があるような心身の状態である場合などは、早めに組織内の誰かを見つけて話すこと。話しづらい上司である場合は、話しやすい身近な仲間に思い切って心を開いてみること。


日本国内でも、消防士のための惨事ストレスケアなどのプログラムが存在しますが、ほとんどの場合、幹部対象にしか行われていないようです。米国でも、以前は、幹部対象でしたが、今では、消防学校の初任課から、具体的なPTSIの予防策、EMSC(エモーショナル・メンタル・ストレスコントロール)の方法などがカリキュラムの中に組み込まれているようです。

米国や諸外国のやり方が、必ずしも、日本で通用するかというと、そうでないところも有ると思います。できるだけ、すぐに全体肯定をせず、部分肯定、部分改善などを行いながら、オリジナルの対象方法を築かれると良いと思います。

もちろん、すべての消防士、レスキュー隊員、救急隊委員が、PTSIになるわけではありません。症状や予防法についても、かなり個人差があり、また、今までPTSIになったことがなくても、突然、PTSIの症状が出ることもあるようですので、もし、仲間に症状が出たときには、お互いに受け入れていきたいですよね。

大切なことは、頭で考えず、心で支え合うこと。何事にも屈しないヒーロー意識が強い米国でも、理屈に偏った頭ごなしの一方的な精神論は通用せず、やはり、そのときの、その一人の心の状態を受け入れて、ケースバイケースで改善に向けて柔らかく、そしてやさしく対応する必要があると思います。

下記のサイトはいずれも厚生労働省のサイトです。

■「こころの耳」15分でわかるセルフケア
http://kokoro.mhlw.go.jp/selfcare/assets/pdf/elearning.pdf

■「こころの耳」働く人のメンタルヘルスサポート
http://kokoro.mhlw.go.jp/

いずれ、下記の消防士バージョンができるといいと思います。
(※MacOSには対応していないようです)

■ストレスチェックプログラム(ダウンロード)
http://stresscheck.mhlw.go.jp/

消防だけでなく、自衛隊、警察官、海上保安庁などにも、同じような心的ストレスへの予防、および、対処方法などのプログラムがありますので、検索してみてください。

それでは、また。


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp