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BCMの専門家や実務者による非営利団体であるBCI(注1)は、2024年2月に「Emergency & Crisis Communications Report」の2024年版を発表した。これは企業の緊急事態発生時における通信手段やツールの選定、訓練・演習の実施状況などを、会員を主な対象としたアンケート調査の結果に基づいてまとめたもので、BCIが2016年から毎年、作成・発表している(注2)

なお本報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。ただしBCI会員でない場合は、BCIのWebサイトにユーザー登録(無料)を行う必要がある(注3)

https://www.thebci.org/resource/bci-emergency---crisis-communications-report-2024.html

(PDF 108ページ/約 7.7 MB)

まず全体的な傾向としては、日常生活においてスマートフォンの利用がますます進み、固定電話の利用が減少傾向にあることの影響が、緊急事態でのコミュニケーションにも現れているといえる。また緊急事態におけるコミュニケーションのためのシステムもSaaS(Software as a Service)化が進んでいる状況が示されている。

また個人的に興味深いと思ったのは、衛星電話の利用率が2023年版から10ポイント程度減少していることである。しかしながらこの点に関して本報告書では、最新の携帯電話では衛星通信機能を備えた機種も登場していることなどを踏まえて、技術の成熟化とともに再び増加するのではないかと推測されている。

図1は緊急事態対応において、危機管理チームの間で使用するコミュニケーション手段について尋ねた結果である。昨年3月に紹介させていただいた2023年版でも似たようなデータがあったが、2023年版では設問の後半が「to communicate internally during a crisis?」(危機的状況下における組織内部でのコミュニケーションに)となっていたのに対して、今回は「within the crisis management team?」(危機管理チームの間で)というように、対象を危機管理チームに限定している。

ここでトップとなっているのは、Microsoft TeamsやSlack、Skypeといった、企業で導入しているメッセンジャーアプリであり、Eメールがこれに続いている。「危機管理チーム」(crisis management team)は経営層によるチームだと考えてよいと思われるので(注4)、緊急事態対応における役員どうしのコミュニケーションが、メールやSMSよりもむしろTeamsやSlackなどで行われているということになる。

画像を拡大 図1.  危機管理チームの間で使用するコミュニケーション手段 (出典: BCI / Emergency & Crisis Communications Report 2024)


これに対して図2は、緊急事態対応においてより広い組織との間で使用するコミュニケーション手段について尋ねた結果であり、こちらでは逆にEメールがトップとなっている。つまり経営層の限定的な人数の間でのコミュニケーションはTeamsやSlackなどで密に行われ、より広い対象との間ではメールを使うというように使い分けられている様子がうかがえる。

画像を拡大 図2.  緊急事態対応においてより広い組織との間で使用するコミュニケーション手段 (出典: BCI / Emergency & Crisis Communications Report 2024)


2023年版ではコミュニケーションの対象が区別されていなかったが、2024年版では対象を区別して図1と図2に分けたことで、前述のような使い分けが明らかになったのは興味深い。

なお、日本だとLINEが普及している印象があるが、これは図1および2では「Free messaging apps from private environment」(私用で使っている無料のメッセンジャーアプリ」に相当する。2023年版を紹介させていただいた時にも述べたとおり、無料のメッセンジャーアプリにはセキュリティ上の懸念があることから、企業における連絡手段として用いられるのは望ましくないと指摘されてきた。これが考慮されているのかは分からないが、図1、2のいずれにおいても、無料のメッセンジャーアプリの利用は2023年版と比べて若干減少している。