2023/12/11
インタビュー

関東大震災で猛威を振るった火災。同時多発的に発生した炎は、避難を妨げ多くの死者を発生させる原因となった。それから100年でハードとソフト整備で都市は大きく変わり、より安全になった。それでも地震火災の恐ろしさは変わらない。新たな不安材料も加わっている。 都市防災を専門とする愛媛大学の二神 透准教授に地震火災について聞いた。
渋滞の延焼拡大作用

関東大震災で猛威を振るった火災。死者・行方不明者10万5385人のうち、火災による死者は9割近くを占める。その後100年を経て、社会は大きく変わった。自治体の消防組織が強化され、建物の耐震化と不燃化も進みさまざまなハード・ソフト対策が実施されてきた。そのため、東京都が発表した首都直下地震の被害想定の死者数は最大6148人とされている。そのうち火災による死者は、4割ほどの2482人だ。
それでも地震火災を過小評価してはならないと警鐘を鳴らすのは都市防災を専門とする愛媛大学の二神透准教授だ。
「関東大震災は9割が火災で亡くなったのは有名ですが、阪神・淡路大震災でも震災の直接的な影響で亡くなった約5500人のうち、火災が原因で1割の方が亡くなっています。生き埋めの状態で火災に襲われたか、逃げ惑う最中に火に囲まれてです。当日の風速は約2m/秒と強くありませんでした。地震火災の恐ろしさは変わっていません」
社会の発展とともに防火対策が進む一方で、新たな“火種”が加わっている。その1つが車だ。「車両の渋滞が危険です。渋滞している車に次々に火が燃え移る可能性があります」と二神准教授は危険性を指摘する。
延焼のメカニズムは、建物などからの炎がタイヤに着火。火は車両全体に燃え広がり、その炎が風下の車両にも広がる。車両間隔が狭いほど延焼する可能性が高まる。ちなみに、東京都の首都直下地震の被害想定では車両の延焼は考慮されていない。

車両の延焼に注目すると、2023年8月に神奈川県厚木市で発生している。パチンコ店の立体駐車場で2階中央付近にある車両のエンジン下部あたりから出火。接近して車が整然と並ぶ駐車場内で炎は燃え広がり、1階から屋上までの3フロアで計152台が焼損した。
防火機能を無効に
渋滞車両による延焼は、都市の防火機能を無効にする。幅の広い道路が備える延焼遮断の機能が発揮されなくなるからだ。東京都では延焼を防ぐ延焼遮断帯としての役割を持たせた特定整備路線の建設を28区間、約25kmで推進している。同様の取り組みは各地で進む。二神准教授はこう話す。
「道路そのものは、一定の幅があれば延焼を防ぐ効果があります。それが渋滞を原因とする延焼で打ち消される可能性がある。普段から渋滞の発生している場所だけではありません。地震の際は渋滞がひんぱんに起きます。東日本大震災の東京で発生した渋滞を思い起こしてください。さらに危険なのは木造住宅密集地です。延焼の危険性はより高まります」
車両の渋滞が原因で延焼遮断帯である道路を炎が横断して延焼が進むのは、二神准教授たちが実施したシミュレーションで確認されている。
愛媛県・松山市の建物データを利用した木造建物が多い地域と一部が耐火建物の地域の間を幹線道路が貫く地域で、渋滞の有無が延焼を左右する結果がみられた。道路は4車線で車両間隔は縦5.5m、横4mの設定だった。風速の設定は、松山市の年間平均風速である約2m/秒より、少し強い3m/秒だった。
二神准教授は「渋滞は人々の避難や緊急車両を邪魔するだけはなく、延焼を促進する可能性があるということです」と説明する。
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