2021/09/06
【インタビュー】リスク情報の進化と活用
変わる技術環境と社会の意識
7月には梅雨末期の豪雨が、8月には停滞する前線の影響による豪雨が、広範囲に災害を引き起こした。ここ数年、毎年のように「過去に経験したことのない大雨」が各地を襲い、そのたびに最大限の警戒が呼びかけられている。気象庁を中心に発せられるリスク情報はどう変わっているのか、それを受け取る側の理解は進んでいるのか、避難行動や初動対応に役立てられているのか――。リスク情報の普及と活用に取り組み、防災・危機管理のコンサルティングを手がけるレスキューナウ危機管理研究所(東京都)社長の市川啓一氏に聞いた。

代表取締役社長
市川啓一氏

――水害が多発しています。リスク情報はいま何を伝え、どう生かされれているのか。発信する側と受け止める側の両側面から教えてください。
一般的な動向として、まず気象情報がこの10 年で劇的に変わりました。背景にあるのはもちろんITの発達。気象庁を中心に気象会社、マスメディアが伝える情報が、ITを駆使することによって急速に進化しています。
一方、情報を受け取る側の社会も成熟の度を強めてきた。もはや以前のように「自然災害が起きるのは仕方がない」という受け止めではありません。特に豪雨に対しては、企業が前倒しで手を打つようになった。それもこの10 年の大きな変化です。
この8月の大雨もそうでしたが、公共交通機関は被害が出る前に計画運休を決めています。かつては橋が壊れた、土砂が崩れた、雨風が基準を超えたなど、一定の被害が出るか、出ることが確実になってから運行を止めていた。結果、駅に人が滞留してホームがあふれかえる事態がよく起きていました。

それがいまは「明日は始発から運休」と堂々といえる。鉄道会社らの危機管理の進化もありますが、それ以上に社会がそれを受け入れる、というより、積極的に求めるようになった。以前は「この程度で運行を止めるな」という反感が強かったうえ、もしかしたら監督官庁も認めなかったかもしれません。
一般企業においても、大手を中心に、大雨を前にして「明日は自宅勤務」「今日は早期退社」などの指示があたり前になっています。逆にそうした指示を出さないようでは、ブラック企業だと思われてしまう。意識は明らかに変わっています。
――気象情報が進化しているとは、どういうことですか?
2015年以降、気象庁は「気象環境が新しいステージに入った」と明言しています。避難の指標も、いままでの経験則の上にはない。実際、毎年のように「過去に経験のない大雨」という表現が使われます。並行して、すごい勢いで気象情報が強化されているのです。
具体的に何をしているのか、端的にいうと情報がより早く、よりきめ細かくなった。より早くとは、注意報・警報よりも早く、警戒を促す事前情報を出すようになったということ、きめ細かくとは、予報の対象エリアがどんどん細かくなっているということです。
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