2018/03/06
激変の時代!海外リスクに備える
有限責任監査法人トーマツは2月27日、「グローバルビジネスリスク記者勉強会」を開催。デロイト トーマツ企業リスク研究所主席研究員の茂木寿氏が、海外展開する企業が陥りやすいリスクとして、実際の企業に発生した危機事例をもとに、起こり得る影響や、影響軽減のために確認すべきポイントを解説した。
■商習慣が現地の独禁法に違反
事例の1つ目は、ある国で普通に行われている商習慣が別の国で独占禁止法(競争法)違反を指摘されるケース。例えばある米大手メーカーは、販売先に対して資金提供する見返りに、競合他社と取引を行わないよう求めていた。EU欧州委員会は製品販売の公正な競争を妨げたとして、日本円で1000億円を超える課徴金を科された。同メーカーは、現地国当局から多額の課徴金を請求されるとともに、裁判費用・当局への報告などのコストが発生。法令違反や訴訟が報道されることで、顧客や社会からの評判を下げ、売上収益が大幅に低下した。
茂木氏は、こうした危機に対する影響軽減のための確認ポイントとして、以下の4点を挙げた。
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1)法令違反となる要件が各国に異なることを踏まえて、拠点ごとに法令違反リスクを評価しているか。その際、商習慣として通常行われているが、国によって法令違反になり得る行為についても考慮しているか
2)各国の独禁法改正や運用厳格化の状況を把握できているか
3)法令違反発生時に想定される課徴金額などを評価し、リスク軽減のためのリソース(人的資源・金銭コスト)投入を経営陣の責任において意思決定しているか
4)各拠点における法令違反のリスクを未然に防ぎ、法令順守の内部統制整備・運用状況の実効性を検証することを目的として、以下の各施策を導入しているか
・コンプライアンスについてルール整備と従業員の理解度確認、および外部環境の変化に応じた定期的なルールの見直し
・各拠点の経営陣から従業員に対する定期的なメッセージ発信
・違反やその兆候を従業員等が発見した際に活用できる内部通報制度の運用
・ルールや内部統制の整備・運用状況を検証するための内部監査
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■広告表現が「差別的」と抗議・批判
事例の2つ目は、何気ない広告表現が「差別的」など社会的良識に反すると受けとめられてしまうケース。大手アパレルメーカーでは、英国顧客向けウェブサイト内の広告内容が「差別的表現」としてSNSなどを通じて拡散され、抗議や批判が相次いだ。同メーカーは表現を削除して謝罪したが、顧客や社会からの評判を下げ、売上収益が低下した。また南アフリカの一部店舗では、暴徒化した国民らによって破壊や略奪が起き、一時閉店となるなど、従業員の安全が脅かされた。
こうした危機に対する影響軽減のための確認ポイントとして、茂木氏は以下の5点を挙げた。
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1)広告などの外部発信に際して、法的・倫理的な側面から企業ブランドに悪影響を与えるリスクについて、各拠点で評価しているか
2)広告など外部発信情報について、情報を作成・発信する部署だけでなく、法務・コンプライアンス部署がチェックする仕組みがあるか
3)外部に情報発信する可能性のある従業員を対象に、リスク軽減の教育を行っているか
4)各拠点の外部配信情報を事前チェックする体制の運用状況について、本社が定期的に確認する仕組みがあるか
5)企業評判の毀損を防ぐためマスコミ報道等への対応として以下の方策を準備しているか
・影響を最小化するための対応スピードや適切なタイミングの想定
・担当者による対外説明や対応内容を決定するプロセスの確認
・必要に応じて実施する記者会見等の事前訓練
・誤情報の発信を防ぐ情報収集、整理の仕組み
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デロイト トーマツは2017年1月から海外展開する日系企業向けに「戦略リスクへのリアルタイムレスポンスサービス」も開始している。同サービスでは、直近1カ月に発生した国・地域別のリスクをもとに、同様の事象が発生した場合を想定し、業態・事業・拠点の状況にあわせて各企業に与える影響及び企業が確認すべきポイントを特定し、企業ごとのレポートとして毎月作成・報告する。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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