コントローラーは、図7に示す状況付与票を画面上で見ながら、電話等でプレーヤーに対する付与を行う。付与が完了して状況付与票の「付与完了」ボタンを押すと、最初の部局の所要時間計測が始まるとともに、その部局のイバリュエーターが持つタブレット端末に連絡が行き、当該付与に対する個別行動の評価を促す。写真2は、イバリュエーターによる評価の様子である。この端末には、図8に示す個別行動評価メニューが表示されている。このメニューには、当該イバリュエーターが評価すべき行動が全て表示されており、そのうち、現在、評価を行う必要がある個別行動がオレンジ色で明示されている。図9は、個別行動の評価画面である。当該部局の個別行動が完了すると、イバリュエーターは「達成」ボタンを押す。これにより、最初の部局の時間計測が終わるとともに、2部局の時間第計測が始まる。同時に、2部局のイバリュエーターに連第絡が行き、個別行動の評価が行われる。なお、「未達」ボタンは、制限時間を経過しても予定された個別行動が取られない場合に、コントローラーからその部局に当該個別行動実施のためのヒントを与えてもらうためのボタンである。このシステムは、平易に操作できるように工夫を凝らしている。たとえば、今回のイバリュエーターは、比較的年配の方が多く、タブレット端末を初めて使った方もいたが、30分程度の事前練習のみで皆さん問題なく使いこなせた。 

以上は、訓練実施時の説明である。危機管理教育・訓練支援システムは、このほかにも訓練の実施や評価、訓練結果の応用の様々な場面で活用できる。なお、本システムは、クラウド型で構築されており、インターネットやLANを通じて同システムのサーバーに接続できる場所であれば、どこでも利用できる。専用の機器は不要である。また、今回の北九州市総合防災訓練のように参加者が1つの会場に集まる形の訓練のみならず、実際の職場を生かして分散して行う形の訓練も可能である。後者であれば、会場設営に要する手間と費用を大幅に減らせる。同システムのサーバーについては、平成26年度以降、無償で公開できるように準備中である。

6.平成25年度北九州市総合防災訓練の結果
情報伝達・共有型図上訓練の大きな特徴として、訓練結果を定量的に示せることが挙げられる。イバリュエーターが見聞した事柄や参加者のアンケート結果に加え、これらの結果を用いることにより、自治体組織としての災害対応の課題をより明確に説得力のある形で見つけ出せる。ここでは、平成25年度北九州市総合防災訓練について、定量的な結果を2つ例示する。

(1)市役所全体としての災害対応能力


自治体組織全体としての災害対応能力を知るには、機能別評価が便利である。表3に災害対応機能の一覧を示す。これは、各部局が実施すべき個別行動を9種類に分類したものである。

図10は、重要付与について、個別行動の達成率と平均所要時間を機能別に集計した結果である。例として第1場面の結果を示した。この結果については、平成19年度北九州市総合防災訓練において、図11に示す読み取り方が提案されている。この読み取り方は、処理に時間を要する部局内外の調整について、それがどれだけ事前に「手続き化」されおり、調整の必要性を減らしているかに着目している。図10を見ると、第1場面で評価対象とした8個の機能のうち、7個で9割以上の高い個別行動達成率が示された。特に、災害対策本部運営・総括、避難対応、公共施設管理対応については、重要付与一件あたりの所要時間も短めに抑えられていた。一方、後方支援対応については、8割以下の個別行動達成率であり、重要付与一件あたりの所要時間も他の機能よりかなり長かった。第1部の後方支援対応は、主に、避難所の物資不足への対処であった。これについては、図11の右上ないし右下の部分に当てはまると考えられる。担当部局を明確化し、部局内外の調整事項を減らすための手続き化をさらに進め、その手続きに習熟する必要があろう。 

なお、以上に示した図10は、12時の訓練終了とともに危機管理教育・訓練支援システムによって即座に集計されて訓練会場の大画面に表示された。さらに、各部局のモニターにもそれぞれの部局の個別行動達成率と平均所要時間が表示された(写真3)。訓練直後の問題意識が高い状態において、定量的な評価結果を即座に提示できたことにより、訓練参加者の実感と合致して今後の課題改善に対する思いを強めたり、実感とのずれを通じて災害対応業務のあるべき姿に対する各部の議論を深めたりすることに役立った。