ネットショッピングなどのレコメンドシステムを例に、AIと人間のハイブリッドによる問題解決の可能性を考える(イメージ:写真AC)

実用例としてのレコメンドシステム

Webなどで、過去のアクセス履歴やネットショッピングの実績から、お勧めの広告が表示されることは多くの方が実感されているだろう。これはお勧めするという意味で名付けられた「レコメンドシステム」によるものである。

実は、今回のコラムを書くにあたって、再度現状のAIの立ち位置などを調査・確認していた際に驚いたのは、このレコメンドシステムがAIの実施事例としてあげられていたことだ。

レコメンド機能もAI(イメージ:写真AC)

私自身、およそ20年ほど前であろうか、このレコメンドシステムの黎明期に、あるプロジェクトの責任者として、サービスにレコメンド機能を実装することになった。当時はAIなどという意識はまったくなく、事実、開発したサービスにAIは搭載していない。

そういう実績・経験もあって、いまのいままでレコメンドシステムとAIを結び付ける思考回路はまったくなかった。しかし、あらためていわれてみると、確かにと納得させられる一面もあるのだ。

まずは、レコメンドシステムについて説明していく。

黎明期のレコメンドシステムにおいて、大きく2とおりのエンジン、お勧めする機能のタイプが存在した。一つはルールベースエンジンであり、もう一つは協調フィルタリング方式のエンジンである。

前者のルールベースとは、その名のとおり、あらかじめ定められたルールに従って、お勧めを出力するエンジンである。この場合のルールとは、例えばAという商品を購入した人にはBをお勧めするとか、AとBを同時に購入した人にはCをお勧めするなどである。

あらかじめ定められたルールに従ってお勧めを出力するルールベースのレコメンドシステム(イメージ:写真AC)

このルールを定めるのは、マーケッターと呼ばれる人間である。マーケッターは、マーケットの基本定石を理解し、経営側の戦略的意思を受け、実際の取引や閲覧データを分析し、どのような施策を打つべきか提案する。施策としてはチラシ広告を打つエリアや、マス広告への展開などがあり、その一つに特定ターゲットへの発信もある。それらの効果を分析し、施策の有効性や是正点なども提案する。

有名なのは、スーパーマーケットでのバスケット理論事例「おむつとビール」が同時に購入されるという事象の発見である。後付けで原因を想定すれば、サラリーマンが帰宅時に奥さんからおむつを買って帰ってほしいと頼まれ、同時にビールに手が伸びるということらしいが、データの分析なく事前に想定するのは困難だろう。

このような効果を生み出すため、ルールとして施策を打ち、その結果を検証しながら、新たなルールを設定する、という作業を継続的に行うのだ。

したがって、ルールベースのエンジンはマーケッターの要望する複雑なルール設定をどれだけ実現するかが肝であり、それ以上でも以下でもないことから、比較的安価なシステム構築が可能ではある。しかし、マーケッターの腕が効果を左右し、運用上の負荷もマーケッターには相当大きなものになるのは避けられなかった。