改正労働政策総合推進法第30条の2(通称、パワハラ防止法)が令和4年4月1日から中小企業にも適用されるようなり、パワハラ防止措置を講じることは、全ての事業主の義務となっています。最近は、ハラスメント防止措置の一環として、一般社員研修や管理職研修でハラスメント研修を実施する企業が増えており、私も講師を務める機会が増えていますが、パワハラ、セクハラなどの職場のハラスメントに加えて、「カスタマーハラスメント」に関する事項を研修内容に含めることを求められることが多くなっています。顧客等の著しい迷惑行為に悩む企業や労働者は少なくありません。そこで今回は、社会問題にもなっているカスタマーハラスメントについて解説します。

1 カスタマーハラスメントとは

「カスタマーハラスメント」とは、顧客等からの著しい迷惑行為や取引先等の他の事業主が雇用する労働者または他の事業主からのハラスメントにより、労働者の就業環境が害されることを言います。カスタマーハラスメントの具体例としては、主に次のような行為が挙げられます。

・売り場担当の社員がクレームで長時間拘束された  
・クレームに対して謝罪する様子を撮影され、S N Sに投稿された
・迷惑行為を行う顧客を注意したところ殴られた
・商品や価格に不満を言って返品、値引き、上司による対応を要求された
・取引先から契約解除を盾に、無理難題を要求された
・個人的便宜や金品の要求を受けた
・取引先のミスを擦り付けられた
・取引先の担当者から暴言、侮辱的な発言、恫喝的クレームを受けた
・性的な冗談やからかい、セクハラ、ストーカー的行為を受けた

2 カスタマーハラスメントの現状

厚生労働省が実施した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にハラスメントに関する相談があったと回答した企業の割合は、パワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)、に次いでカスタマーハラスメント(19.5%)が高くなっています。

画像を拡大 令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)

また、労働者に対する調査では、顧客等からの著しい迷惑行為を受けたことによる心身への影響として、「怒りや不満、不安などを感じた」(67.6%)、「仕事に対する意欲が減退した」(46.2%)が高くなっています。そして、顧客等からの著しい迷惑行為を何度も繰り返し経験した労働者の場合、「眠れなくなった」(21.2%)、「通院したり服薬した」(8.8%)の回答も見られ、深刻な影響が生じていることが確認されています。

画像を拡大 令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書

これらの結果からも、カスタマーハラスメントは、労働者に精神的ストレスを強く与え、業務のパフォーマンス低下や健康不良の原因となるだけでなく、企業にとっても、クレーム対応にかかる時間、業務への支障、金銭的損失や企業イメージの低下など、多大なマイナスの影響を及ぼすものであることがわかります。