2018/02/19
安心、それが最大の敵だ
中部・近畿での果敢な取り組み
水資源機構のダム操作で、特筆すべきは、中部・近畿地方でのダム総合管理所や事務所の素早い判断と動きであった。代表例を挙げてみよう。
〇<高山ダム管理開始以来、2番目の規模となるダム流入量を記録>
淀川水系名張川の水資源機構の管理する高山ダム(京都府相楽郡南山城村)流域では、台風21号に伴う総雨量が400mmに達し、ダムへの流入量は最大2294m3/sを記録した。これは、1989年(昭和4 4年)から管理している高山ダムでは2番目に大きな流入量の洪水だった。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による)。この大洪水に対して、高山ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理
事務所と協同し、特別防災操作※を実施し、ダム下流の有市(ありいち)水位観測所において、水位を最大約1.9m低減(推定)し、道路の冠水時間を2.5時間も低減し、通行止めの時間短縮に寄与した。
この防災操作を具体的に見てみる。同操作では下流河川の状況、木津川本川の状況、ダムの貯水容量等を考慮し、淀川ダム統合管理事務所と連携し、ダム下流の浸水被害軽減のための特別防災操作を行った。この結果、ダム下流の有市水位観測所付近では、高山ダムによる洪水の貯留によりダムが無い場合に比べて河川水位を最大約1.9m低減(推定)し、国道の水没時間を8時間から5時間半に短縮した。
(※『防災操作』とは、大雨などによりダム湖に流れ込む洪水の一部を貯水池に貯め込み、洪水を小さくして、ダム下流の河川に流すことを言う。また、『特別防災操作』とは、下流河道の整備状況を勘案し、防災操作実施後の貯水容量に余裕があると判断した場合には、ダムの洪水調節容量をさらに増やす、つまり全体の貯留量を増やし、放流量を低減させることで下流の被害を軽減する操作のことである)。
〇<日吉ダム、台風21号に伴う洪水に対し防災操作を実施~桂川の河川水位を低減~>
淀川水系桂川の水資源機構日吉ダム(京都府南丹市日吉町)流域では、台風21号の影響により、10月21日午前6時から23日午後2時までの総雨量が229mm(ダム流域平均雨量)を記録した。この豪雨により、ダムへの最大流入量は、毎秒618m3に達した。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構日吉ダム管理所の広報資料による)。
この洪水に対して、日吉ダム管理所と国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所は協同し、特別防災操作を実施し、最大流入時に約94%(毎秒約578m3)の水をダムに貯留して、ダム下流の河川水位の低減に努めた。
より具体的に特別防災操作を見てみよう。台風21 号の影響により、淀川水系桂川の日吉ダム流域では、10月22日午後8時~9時までの1時間の雨量が15.6mmを記録し、降り始めの10月21日午前6時から23日午後2時までの総雨量が229mm(ダム流域平均雨量)にもなった。
この降雨により、ダム流入量が増加し、22日午後4時10分には洪水量(毎秒150m3)に達した。ダム下流の河川水位の上昇を低減させるため、降雨及びダム流入量の状況から、ダム流下量を減量してもダムに貯留可能であることを確認し、日吉ダム管理所と国土交通省淀川ダム統合管理事務所は協同し、特別防災操作を行った。
特別防災操作は、22日午後10時40分に、ダム流下量を通常の防災操作である毎秒150m3から、毎秒60m3とし、さらに23日午前1時30分には毎秒15m3まで減量し、通常の防災操作以上に貯留する操作を行った。
23日午前1時22分には、流入量が最大(毎秒618m3)となり、同時刻におけるダム流下量は毎秒約40m3であり、流入量の約94 %(毎秒約578m3)をダムに貯留した。
防災操作の概要
今回の防災操作により、日吉ダムが無い場合と比べ、ダム下流の保津橋(ほづばし)地点(亀岡市保津町下中島地先)の河川水位を、最大約0.4メートル低減したものと推定され、はん濫危険水位(4m)の超過時間を約5時間短縮したものと想定される。保津橋地点の水位低減効果につながった。
〇<布目ダム管理開始以来最大のダム流入量を記録>
木津川水系布目川の水資源機構が管理する布目ダム(奈良県奈良市北野山町)流域では、台風21号に伴う総雨量が270mmに達し、ダムへの最大流入量は1992年の管理開始以来最大の毎秒約210m3を記録した。
この大洪水に対して、布目ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、特別防災操作を実施し、ダム下流の興ヶ原(おくがはら)水位局観測所付近で、河川水位を約1.2m低減(推定)させることにより、下流沿川の洪水被害軽減に努めた。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による)。
この防災操作では下流河川の状況、布目川の状況、ダムの貯水容量等を考慮し、淀川ダム統合管理事務所と連携して、布目川沿岸の洪水被害軽減のための特別防災操作を行った。
ダム下流の興ヶ原水位観測所では、布目ダムの防災操作によりダムが無い場合に比べて河川水位を約1.2m低減したと推定され、下流の洪水被害軽減に努めた。
10月20日、午前4時頃より降り始めた台風21号に伴う降雨は、淀川水系布目川の布目ダム上流域で、10月22日午後8時~9時の1時間の雨量が最大21mm、総雨量は270mmに達し、ダムへの最大流入量は管理開始以来最大の毎秒約210m3を記録した。1992年からの管理開始以来最大のダム流入量を記録したことになる。この洪水に対して、流入量が増加し、22日午後6時40分には洪水量(毎秒100m3に達したため、防災操作を開始した。
〇<名張川の洪水被害を軽減>
淀川水系名張川の水資源機構の管理する名張川上流3ダム(青蓮寺ダム・三重県名張市中知山、室生ダム・奈良県宇陀市室生大野、比奈知ダム・三重県名張市上比奈知)流域では、台風21号の降雨により、10月18日午後3時から10月23日午前7時までの総雨量が青蓮寺ダム流域で470mm、室生ダム流域で357mm、比奈知ダム流域で522mmを記録した。この大洪水に対して、名張川上流3ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、特別防災操作※を実施し、ダム下流の名張地点において水位を約1.3m(推定)低減することにより、下流沿川の洪水被害軽減に努めた。
以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による。
青蓮寺ダム、室生ダム、比奈知ダムの特別防災操作を具体的に見てみる。10月18日午後3時頃より降り始めた台風21号に伴う降雨は、淀川水系名張川の3ダムでは、比奈知ダム流域で、10月22日午後10~11時までの1時間の雨量が最大35mmを記録するなど、すさまじい降雨であった。
この豪雨による出水に対して、各ダムへの流入量が増加し、ダム下流沿川の洪水被害を軽減するため、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、青蓮寺ダム、室生ダム及び比奈知ダムの特別防災操作を行った。
ダム下流の名張水位観測所では、青蓮寺ダム、室生ダム及び比奈知ダムの特別防災操作によりダムが無い場合に比べて河川水位を約1.3m低減できたことが推定され、下流の洪水被害軽減に大きく寄与した。
(謝辞:資料の引用をお許しいただいた国土交通省近畿地方整備局と独立行政法人水資源機構に感謝したい)
(つづく)
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