2020/06/03
DX時代のデジタルリスク
2. サプライチェーン(取引先)の管理リスク
パンデミック環境下で多くの企業で問題となっているのが、サプライチェーンの寸断でしょう。現代のビジネスは自社だけで成り立つことはまれで、さまざまな企業と共存しています。多くの資材供給元、業務委託先、外注先とのつながりが突然切れたり、その関係が細くなったりしたら、自社のビジネスの継続が危うくなることもしばしばです。とはいえ、全てのサプライチェーンのつながりを把握していないという企業が多いのも事実です (もちろん取引先としてのリストはあるのですが、つながりが分からないのです)。また、昨今の状況下では、どの企業にリスクがあるか把握できていないこともよくあるケースです(与信などはしているでしょうが、このようなパンデミック下での耐性や、バックアップできる取引先の把握が難しいのです)。
今すぐできることとしては、この取引先が抜けたらビジネスが立ち行かなくなるというリストを作成することです。どの取引先が抜けても困ると考えておられるケースも多いのですが、このような環境下では本当にビジネスクリティカルなところだけに絞って対策を立てるべきです。中長期的には、この取引先群をマッピングしておくことです。取引先をリストするだけでなく、事業へのインパクト、結びつきの強さ、直近の取引などが瞬時に可視化できる仕組みが重要になります。このマッピングにより、対策すべきポイントが見えてきます。これにはデジタルツールの利用が進みつつありますので、利用されることをお勧めします。
3. パンデミックに便乗する詐欺リスク
現在騒がれているパンデミックに限ったことではありませんが、世の中で話題となっているイベントに乗じたフィッシング詐欺が、近年横行しています。主にメールを使った巧みな勧誘や、魅力的なコンテンツを使ったフィッシングは、2020年4月に1万件以上が報告(*1)されています。ここ数カ月では、政府が決定した給付金や補助金の申請をかたったり、マスクなどの衛生用品を販売するサイトをかたったりするやり方が増加しています。自社のブランド名やサービス名が、このような犯罪に使われる可能性があります。日本で見られるフィッシングは、eコマース(ネットショッピングサイトなど)、金融機関、通信事業者をかたるものが大半を占める(*2)ため、特に関係する企業は注視する必要があるでしょう。フィッシングサイトが長期にわたって存在すると、顧客や従業員の情報漏えいリスクは高まります。また企業の評判が下がることも避けられないリスクです。
消費者や従業員に対して、フィッシングに対するデジタルチャネル教育を施すことも重要なのですが、フィッシングは手を変え品を変え、心の隙に入り込みます。上記のような教育だけでは不十分なことを歴史が物語っていますので、迅速にフィッシングサイトをテイクダウンする仕組みの把握とプロセスを導入するのがいいでしょう。
4. 後付けのコンプライアンスのリスク
平常時にはコンプライアンスに厳しい企業でも、現在のようなパンデミック環境下では、一時的にコンプライアンスを保てない場合もあるのではないでしょうか。社外や社内への承認や報告に関するコンプライアンスが多いようですが、相談を聞いていると「この状況で、そうは言っていられない」という状況は、どのような企業にもあるものと推測されます(それが常態化してはならないのですが……)。
まずは、ビジネスに直結するコンプライアンスとして何があるのかを洗い出しておくことが重要なのですが、現在の状況下では、それ以上に後付けのコンプライアンスに目を向けることも必要でしょう。あまりにも期限が過ぎてしまわないよう、何月何日までにこの報告を終えなければならないのかを漏らさず把握することや、後の監査に例外的に認めてもらえる文書に必要な情報を集められるようにしておく、ということがポイントになります。コンプライアンスリスクは、デジタルリスクとは遠いと考えられるかもしれませんが、現在のほとんどの仕事が情報処理(パソコンに向かってする仕事が中心という意味)である企業では、デジタルツールによるリスクの管理が可能ですので、利用を検討されることをお勧めします。
パンデミック状況下では、リモートワーク環境の整備とそのデジタルリスクを対策することが急務でした。フェーズは次のレジリエンスリスク対策に移っていきます。遭遇したことのないリスク対策に多忙を極められているかと察しますが、ビジネスの回復に向けて、上記の4項目がレジリエンスリスク対策について少しでも参考になることを願っております。
*1) 2020年4月フィッシング報告件数(フィッシング対策協議会)
https://www.antiphishing.jp/report/monthly/202004.html
*2) JPCERT/CCに報告されたフィッシングサイトの傾向
https://blogs.jpcert.or.jp/ja/2020/03/phishing2019.html
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