1. はじめに

世界がボーダレス化していく中、また日本のマーケットが少子化により縮小しており、日本企業も大企業はもとより、中堅・中小企業も生き残りのためには、積極的に海外マーケットに進出していく必要性が生じるようになって久しい。日本からの直輸出がコスト的にも採算が厳しくなっており、海外投資を行い、その拠点を軸に生産・営業活動を行うことが当たり前になってきている。このような環境下で、日本政府もより多くの二国間投資協定やEPA(経済連携協定)を締結することにより、日本企業の投資を促進しており、現時点では、70カ国近くの国と投資協定または投資章を含んだEPAを締結し発行している。

また、投資協定やEPAの投資章には、外国の投資家の投資であることを理由に差別的に取り扱う行為や、外国の投資家の投資財産を収用(国有化)する行為を制限または禁止する規定などが規定されており、万が一、その約束が反故にされた場合には、投資家は、投資仲裁手続の下で、直接、投資先政府との仲裁の申し立てを行うことができる。そしてこの仲裁により投資家に有利な判断が出れば、仮に投資先政府がその判断に従わなかったとしても、この判断を以て強制執行すれば、投資によって被った損害額を回収できるとされている。しかし、果たして本当にそうだろうか。本稿では、投資協定仲裁の執行の問題点とその解決の可能性について考えてみたい。

2. 投資協定とは

経済産業省によると、投資協定とは、相手国からの投資を促進するための国同士の取り決めであり、投資環境を整備し、相手国の個人や企業が行った投資を保護することをお互いに約束しているものである。一般的な投資協定には、収用や為替交換/送金の制限をしないことや、内国民待遇(投資先国が、外国投資家を、それらと同様の状況にある内国投資家に比べて不利益に取り扱わないこと)、最恵国待遇(投資先国が、投資家の投資活動に関連して、これらの投資家と同様な状況にある第三国の投資家に与えている待遇に比べて不利に扱ってはいけないという義務)や公正衡平待遇(投資先国が、投資家を公正及び衡平に扱わなければならないという一般的な保護義務)が定められている。

また先にも述べたが、日本政府は、現在70カ国近くの国と投資協定、または投資章を含んだEPAを締結し発行している。EPAとは、投資の促進や貿易の自由化だけでなく、人の移動や知的財産権の保護なども含めてより幅広い分野での経済関係の強化を目指す国同士の取り決めのことを言い、通常、投資に関する章が設けられ、その中で投資協定と同様の取り決めがなされる。また、二国間の投資協定、EPAだけでなく、まだ発行されていないが、TPPなどの多国間で締結されるもの、またエネルギー憲章など、多国間でかつある特定の分野に限って締結されるものなどがある。