3.従業員の自宅における防災

地震がいつ、どこで発生するかを正確に予知することは、今のところできません。つまり従業員が勤務しているときに地震が起こるとは限らず、夜間や休日など自宅にいるときに地震に見舞われることも十分考えられます。

これまで、企業の防災を考えるなかで、勤務中の従業員を守るためのさまざまな対策を検討してきましたが、その一方で、もし従業員が自宅で家具の下敷きになりケガをしてしまうと、企業の復旧や事業継続に参加することはできません。また従業員自身が無事であっても、家族が負傷したり、亡くなったりすると、従業員が速やかに職場復帰することも難しくなるでしょう。

首都直下地震クラスの大きな揺れに見舞われたとき、従業員やその家族の身を守るのは、防災に関する知識や備蓄です。企業は自社の従業員が自宅においても身を守れるように、次の項目について社内教育を進めておくことが求められます。

(1)住まいの耐震性
大きな揺れによって建物が倒壊した場合、そこで生き残ることは難しくなります。特に建築基準法施行令改正(1981年5月31日)以前に建築された建物は、大地震に対する安全性が低いと考えられています。耐震診断を受け、必要な耐震化工事を行うことを検討します。

自治体によっては、耐震診断や耐震化工事に必要な費用を補助する制度を設けている場合がありますから、確認するとよいでしょう。また、これから自分の住まいを選ぶ従業員に対しては、建物の耐震性について啓発します。

(2)家具や電気製品の転倒防止
近年の地震による負傷者の30%~50%は、家具や電化製品の転倒や落下、移動によるものとされています。自宅の家具、また冷蔵庫などの大型電気製品などは、大地震が起こると必ず倒れるものと考え準備を進めます。

家具類の転倒・落下・移動対策としては、次のようなことが考えられます。

●家具類の転倒・落下、移動対策の例
・納戸や据え付け収納家具などを使い、できるだけ生活空間に家具を置かない(特に、寝室には背の高い家具を置かない)
・タンスや食器棚などは、壁に固定する
・書棚は壁に固定するとともに、重い書籍は下の段に入れる
・家具は、万が一倒れても、出入り口をふさがないように置く
・机の上のパソコンは粘着マットなどの上に置く
・窓ガラスは、強化ガラスに入れ替える、あるいは飛散防止フィルムを貼る など

(3)水・食料の備蓄
大きな地震が起こると、電気・ガス・水道などのライフラインが停止するとともに、物流が乱れることにより、食料品などさまざまな物資の入手が困難となります。

発災後は、当面自宅にとどまり生活することを余儀なくされますので、救援物資が届くまでの間、家族が過ごせるように水・食料などを備蓄しておくことが求められます。

それぞれの家庭においても、最低3日分、できれば1週間以上、持ちこたえられる量を準備します。

【ここがポイント】

被災時にも、企業の重要な経営資源である従業員を守るためには、事前の準備が極めて重要です。

1.従業員の安全配慮義務を果たす
2.安否確認は手作業ではなく、システムを活用する
3.従業員が自宅でも身を守れるように防災教育を行う

【参考文献】
「今までなかった!中小企業の防災マニュアル」(労働調査会、筆者編著)

(了)