2023/01/06
インタビュー
日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて動きが活発化している。企業もCO2の排出量削減や、化石燃料に依存しないエネルギーの利用体制への変化など、さまざまな対応が求められている。こうした取り組みには大きなコストがかかる可能性もあるが、企業はどのように対応するべきなのか? 神戸大学大学院経営学研究科教授の國部克彦氏に話を伺った。
CO2が削減できなかった際のリスク
気候変動についてはこれまでもさまざまな予測がされており、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は「2030年ごろには、産業革命前に比べて1.5度以上上昇する可能性が非常に高い」という報告書を出し、脱炭素への対策強化を求めてきています。
ただし、本当に気候変動と人類のCO2の排出量に起因していて、人類がCO2の削減に失敗したら温暖化が抑制できなくなり、人類の存続にかかわる重大問題なのであれば、CO2を削減する取り組みと同時に、削減できなかった場合の温暖化した地球に適応するための取り組みも同時に考えるべきですが、後者についてはほとんど議論されていません。
しかも奇妙なのは、それだけ深刻な問題であると言っているにもかかわらず、カーボンニュートラルの期限が2050年と、今から30年近く先であることです。大きな危機が迫っているというのに、このように悠長に構えていていいのでしょうか? なぜ、すぐに抜本的な対策(たとえば化石燃料の使用停止など)を取らないのでしょうか。
このように考えるならば、世界は気候変動問題に真剣に取り組んでいるのかという疑問がわきます。これは、最も積極的に取り組んでいるのは欧州でも同じです。そう考えると、脱炭素を推し進める本当の目的は気候変動の解消ではなく、別のところにあるのではないかと思われます。
欧州はエネルギーの覇権を握りたい
現在エネルギー資源の主流となっているのは石油や石炭などの化石燃料ですが、化石燃料はアメリカやロシア、中東などには豊富にあるものの、欧州はこれらのエネルギー資源が十分ではありません。かつては欧州はアフリカやアジア、中東に植民地を持つということをやっていましたが、第二次世界大戦後に植民地が独立したため、化石燃料の権益の多くを失うことになりました。
そこで欧州は、化石燃料に対する支配権を失ったので、再生可能エネルギーに転換することにより、エネルギー戦略に打ち勝とうとしている面があるのではないでしょうか。つまり、「気候変動防止」は産業構造転換を目指すための「錦の御旗」なのです。産業構造の転換には時間が必要ですから、直ちに抜本的な対策を取らずに、時間をかけて社会システムを変えようとしているわけです。
ただ、化石燃料に頼らずに再生可能エネルギーを取り入れていくことは、悪いことではありません。特に日本は化石燃料などのエネルギー資源がない国ですから、再生可能エネルギー技術を高め、化石燃料に依存しない体制作りをすることは、国にとっても企業にとっても非常に有益です。
化石燃料に依存しない=CO2の排出量削減ではない
ここで重要なことは、「化石燃料に依存しない体制作り」=「CO2の排出量削減」では決してないということです。ここをイコールで結びつけて考えると、様々な弊害が生じます。なぜなら、CO2の排出量を削減するには、最終的には生産量を減らさざるを得ないからです。
エネルギー転換のために莫大な社会的コストをかけたにも関わらず、CO2の排出量は減ったけれども国力も減った、ということになっては本末転倒ですし、国にとっても、企業にとっても非常に大きなリスクです。
企業がカーボンニュートラルに取り組むときには、このような欧州の思惑を認識しておくことがとても重要だと私は考えています。環境危機を煽る主張に惑わされずに、本質を理解する必要があるといえるでしょう。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方