2021/12/09
事例から学ぶ
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12月3日朝6時37分、山梨県東部・富士五湖を震源に最大震度5弱を観測した地震について、富士山噴火との関連を訝った人は多いのではないか。その山梨県では今年10月末に、県や市町村など複数の機関が参加する訓練が行われた。訓練の手法は、噴火の可能性が高まった時点から噴火に至るまでを模擬的なシナリオで提示し、それについて参加機関が自分たちのとるべき対応を検討する「図上訓練」と呼ばれるもの。災害対応力を高めるための具体的なシナリオや状況付与について取材した。
富士山は、1707年(宝永4年)に噴火した後、表面上は約300年間沈黙してきた。しかし、2000年とその翌年、富士山直下で低周波地震の多発が観測され、これを機に、富士山における火山防災対策を検討するため、2001年7月に国並びに関係する県、市町村により「富士山火山防災協議会」が設置され、火山防災対策や火山ハザードマップの作成などが進められてきた。今年3月には、富士山ハザードマップが改定されたが、10月に行われた訓練では、いつ発生するか分からない富士山噴火に対応するため、新たなハザードマップのもと、県や市町村らが、発災時の対応の確認を行い、実効性の高い避難体制を確立することを目的に実施された。

図上訓練とは、「擬似的な災害環境下において、訓練参加者になすべき意思決定と役割行動を問い、その妥当性の検証を通じて意思決定能力の向上を目的とした訓練」(日野宗門,2000)とされる。実際に体を動かすのではなく、大きな机などを囲んで、地図などを使いながら進めていくのが一般的だ。ファシリテーター役が模擬的な災害環境を作りだすため、災害時に起き得る事象を状況付与として提示し、それに対して参加者は実施すべきことを検討し、意思決定しながらその妥当性を検証していく。
山梨県によると、今回の参加機関は県、市町村(富士吉田市、都留市、大月市、上野原市など10市町村)に加え、警察、消防、自衛隊など約80人。市町村については、それぞれの庁舎からオンラインでつないで、状況報告などを行った。
訓練で使われた噴火シナリオは下記の通りだ。これらのシナリオに加え、当日の「観光客数」などの前提条件、さらにファシリテーターから提示されるさまざまな「状況付与」に基づき、参加機関は自分たちがとるべき行動を検討し、その結果を災害対策本部へ報告した。
【シナリオ】
(1)20XX年7月12日(土)火山活動の変化
・富士山山頂直下から北側山腹にかけての浅部で「火山性地震」が増加している。
・気象庁が火山噴火応急対策支援サイトの「火山活動解説コメント」に地震増加について記載。
(2)20XX年7月13(日)警戒レベルの引き上げ.
12:00 前日から続く火山性地震が更に増加したため、気象庁は、火山の状況に関する解説情報(臨時)を発表した。
14:00 気象庁が火山活動解説資料を発表。
15:00 浅部における火山性地震の増加、浅部での地殻変動の観測を受け、噴火贊戒レベルを1から3に引き上げ。
15:20 噴火警戒レベル3の噴火警報の解説のため、気象庁が、火山の状況に関する解説情報を発表(訓練電文省略)。
16:20 噴火警戒レベル3の噴火警報の解説のため、気象庁が、火山活動解説資料を発表。
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