□解説 いずれ大変なことになると分かっているのに手をつけなかった

確率論や従来の知識や経験からは予測できない極端な事象が発生し、それが人々に多大な影響を与えることを指す「ブラックスワン」という言葉があります。その昔、英語で無駄な努力を意味するたとえに「ブラックスワンを探すようなもの」というものがありました。白鳥の色は「白」に決まっていて、黒い白鳥など存在するはずがないと考えられていたからこその慣用句でした。しかし、1697年にオーストラリアで本当にブラックスワンが発見されて大騒ぎとなります。これを受けて「ブラックスワン」は、一転して想定外の事態が起こり得ることのたとえとして使われるようになりました。

また、「エレファント・インザルーム」という慣用句があります。これは「誰もが認識しているのに、触れないこと」を意味する言葉です。部屋の中にゾウがいる光景を想像すれば、そこにゾウがいることは誰の目にも明らかで、早晩、ゾウは部屋にあるものを踏みつぶし、確実に災いが振りかかって来ることは確実です。しかしながらなぜかそれを放置してしまうことから「見て見ぬふりをする」という意味で使われます。

近年、これら2つの言葉を掛け合わせた「ブラックエレファント」という言葉が登場しました。「いずれ大変なことになると分かっているのに、なぜか見て見ぬふりで、誰も対処しようとしない脅威」を指します。

今回のコロナ禍のことを「ブラックスワン」であると言う人もいますが、リスクマネジメント分野の専門家の多くは、「ブラックスワンというより、ブラックエレファントである」という考え方が主流になりつつあるようです。世界的に流行して大きな被害をもたらす感染症の可能性は、世界保健機関(WHO)などが長きにわたり警鐘を鳴らしていましたし、世界経済フォーラムが毎年発行している「グローバルリスク報告書」では、15年前の発行当初からパンデミックの脅威について記載され続けていたからです。

この「ブラックエレファント」の考え方は、企業におけるリスクマネジメントでも忘れてはならない考えだと思います。