コロナウイルス感染病は2度罹り、3度罹りする

筆者たちが鳥取県内の養鶏場で実施したIBウイルス抗体調査成績は、野外に分布するIBウイルスの鶏に対する病原性の強さに、重篤な臨床症状を引き起こすものから不顕性感染に終始するものまで、大きな幅があることを示唆しています。

IBウイルス抗体陽性を示したC採卵養鶏場における成績をまとめたものが図1です。この結果を血清疫学的に分析したところ、大変興味深い所見が認められました。

写真を拡大 鳥取県内C養鶏場で飼育されている鶏の血清中の鶏伝染性気管支炎ウイルス中和抗値測定(1972年春)。すべての鶏は鶏伝染性気管支炎ワクチン未接種

図1のグラフは、ウイルス中和試験に用いたウイルス株4株のうち、国内で分離されたKH株(グラフの▲)を中心に作成したもの。KH株に対する抗体が認められなかった鶏から、最も高い抗体価を示した鶏まで、順番に並べています。そこに、各鶏の血清中に認められた他の3株のIBウイルス株に対する抗体価を重ねて書き入れました。

これを見ると、それぞれの鶏の血清中のKH株に対する抗体価と他のウイルス株に対する抗体価は、必ずしも連動していません。むしろ、それぞれ独立していることが分かります。また、残りの3株間の抗体価も連動していません。以上のことから下記に示す事柄が推察され、同時に疑問も生じました。

【推察されたことと生じた疑問】
(1)この養鶏場には、過去に、抗原性の異なる病原性の弱いIBウイルスの侵入が度々起きていた。
(2)この養鶏場に侵入したIBウイルスは、そのつど鶏に感染することができ、侵入したIBウイルスごとにそのウイルスに対する抗体を感染鶏は産生した。すなわち、この養鶏場で飼育されている鶏には、IBウイルスの2度罹り、3度罹りが起きていた。
(3)それでは、過去に感染したIBウイルスに対して産生された鶏の血清中の抗体は、次に侵入したIBウイルスに対する感染防御作用を示すことはなかったのか? このような2度罹り、3度罹りが起きる奇妙な現象は、鳥類のコロナウイルスであるIBウイルス以外のウイルスでも、通常起きるのであろうか?
(4)近々使用が解禁になるIB生ワクチンに期待されるワクチン効果は何か? IB生ワクチンが有す、野外から侵入する病原体のIBウイルスに対する感染防御には、どのようなメカニズムが働くのか?しかし、ワクチン効果の程度は? 野外株による2度罹り、3度罹りが起きていることを勘案すると、IB生ワクチン接種によるワクチン効果はあまり期待できないのではないか?

40年以上前に筆者たちが得た結果から、今回大阪で起きたPCR再陽転化の理由として別のコロナウイルスの再感染があったことは、可能性は低いものの完全には否定できません。もっとも、COVID-19ウイルスの持続感染が起きていたため再発があったと考えるのが最も自然ではありますが。