2019/10/18
危機管理の神髄
ただ金というようなものはない
FEMAの無償資金が受けられるということで州の災害対策がいかに不十分なものとなるかを述べた。FEMAの無償資金のもう一つの、さらに破壊的な影響は、そのプロセス自体である。その事務作業の負担は、州とFEMAにとって、本来やるべきことをやる時間がなくなるほど膨大なものである。
FEMAの無償資金プログラムのうち最大のものは、個別援助と公共援助である。個別援助プログラムは、その名が示唆する通り、家主か借家人かを問わず、個人のためのものである。災害によって生じた家屋の損害を修復する費用を供与する。公共援助プログラムは州と自治体に、道路・橋・公共の建物・公園を復旧するための資金が与えられる。さらに災害期間中の初動対応をした人、緊急事態マネジャーの時間外給与も支払われる。
専門家は長い間こうしたアプローチが賢明なのかどうか議論してきた。彼らはなぜワイオミングの牧場主がハリケーンの対応に従事しているキーウェストの緊急事態マネジャーの給与を支払わされるのかと問題にした。エコノミストは効果的なリスクマネジメントとは州が年間を通じてのトロピカルな気候から得られるベネフィットとトロピカルストームのコストとのバランスをとることではないかと主張した。
個別援助(IA)と公共援助(PA)はインセンティブを逆に機能させるということ以上に、われわれの国としての備えに悪影響を及ぼす。クライアントとのコンタクト、交渉、事務作業、現場検証などを含むIAとPAのプロセスは、数百人の災害対応者にとって、FEMAの時間の大部分を占める膨大な作業であり、大災害に対する国としての準備という本来の使命に使うべき時間を奪ってしまう。
FEMAは主な使命を放棄したので、それを州に任せる。緊急事態管理遂行許可(EMPG)とその他のプログラムによって、FEMAはさらなる無償資金を大災害準備のために州と自治体に与える。EMPGはありがたい無償資金であるが、後で見るように(第10章「すべての災害はローカル」の項目)、十分というにはほど遠い。
全米で毎日、FEMAはその時間と才能を意味のない事務作業に使い果たし、国は準備のない状態に置かれる。こうしてわれわれはローカルをナショナル化し、ナショナルをローカル化することに成功した。FEMA(ナショナル)は州・自治体(ローカル)がやるべきことをやり、本来FEMAの唯一の仕事である国としての災害対応を州・自治体に託した。どうしたものか、我々は逆向きのシステムを作り上げてしまったのだ。
ニューオリンズEOCのカール・メテイリーとそのチームに話を戻そう。大事な初動段階で、クライシスがもたらした人間ニーズの大波に対処するために、国は十分大きく、十分迅速でなければならないときに、いくつかの対応機関は互いに分断されて、ちぐはぐな目的のために行動し、時間を失っていた。
われわれはそれをどの災害の後にも、FEMAと州と自治体政府が災害現場からは遠い別々の場所に拠点を置くことに見ることができる。FEMAは合同現場事務所(JFO)を、州は別の対策本部を、自治体政府はEOCを稼働させる。その結果、一つではなく三つの災害対応があることになる。この複雑な環境は、複数の重複する管轄区域と異なる使命の点も相まって、とんでもない機能不全の原因となる。
その予言的な著書『灯りが消える』でテッド・コッペルは、電力送電線網が攻撃されたときの事後対応については、連邦政府は準備ができていないことを明らかにしている。人口の密集地域が何カ月あるいは何週間にもわたって停電となるときにも、一般住民のための総合計画はない。国土保障省の長官にその計画について質問したら、長官は電池式ラジオを常備してはどうかというのがせいぜいであった。コッペルの結論は、政府はそのような大災害への備えはできていないということだ。この本の前提は、いかなる種類の、またいかなる原因による大災害にも、われわれの政府は準備ができていないということである。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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