韋駄天台風

その後、台風第9119号は急加速しながら北東進し、9月27日の夕方に長崎県佐世保市付近に上陸。そして、福岡県、山口県を経た後、日本海を猛スピードで駆け抜けて、28日朝には北海道に再上陸し、28日午後には千島列島近海で温帯低気圧となった。

図2では、各日午前9時の台風中心の位置を小さな○印で示しており、その間隔を見れば、台風が24時間に進んだ距離が分かる。図から明らかなように、台風第9119号は、27日9時から28日9時までの24時間に、それ以前とは比較にならないほどの長距離を移動した。移動距離から移動速度を求めると、24時間の平均時速で80キロメートルを上回る。北海道を通過したときの移動速度は、時速100キロメートルに達していた。まさに、韋駄天(いだてん=仏教用語で足の速い守護神)台風である。

台風生涯の4ステージ

台風の一生は、発生期、発達期、最盛期、衰弱期の4ステージに分けるのが一般的である。台風第9119号について、各ステージをそれぞれ1面の気象衛星画像で代表させた4面図を図3に掲げる。

写真を拡大 図3. 気象衛星がとらえた1991年台風第19号の姿。左から、発生期(9月16日)、発達期(9月21日)、最盛期(9月26日)、衰弱期(9月28日)。いずれも正午の赤外画像。台風中心を各画像の中心に置いている

発生期は、台風としての形が整うまでの期間である。台風第9119号の場合は、熱帯低気圧が生まれてから、台風に格上げとなる9月16日までがこれに該当する。図3の16日の画像は、台風になったばかりの段階で、目はまだみられない。

発達期は、強度が増していく時期で、中心気圧が生涯を通じて最低になるまでの期間である。台風第9119号の場合は、台風となってから9月23日頃までがこれに該当する。図3の21日の画像は、強い台風に発達した段階で、雲域が台風らしい丸い形に整い、中心に小さな目ができている。
最盛期は、中心気圧は若干浅まるが、暴風域が拡大していく期間である。台風第9119号の場合は、転向点を通過する前後の3日間程度、9月24日頃から27日朝までがこれに該当する。図3の26日の画像は、明瞭な目の周囲を濃密な厚い雲域が円形に取り囲み、台風の勢力が強いことを示している。その北側に見られる雲域の広がりは、早くも現れたこの台風の温帯低気圧化の兆候である。

衰弱期は、台風としての勢力が減じていく期間である。注意すべきことは、同時に温帯低気圧として発達するものがあることで、その場合は勢力が弱まるとは限らない。台風第9119号の場合は、速度を上げて移動した9月27日朝以降の期間が衰弱期に該当する。図3の28日の画像は、中心の南~西側(進行方向の後方)の雲が減少して、台風の特徴である丸い形が崩れ、温帯低気圧としての性質に近づいていることを示している。